簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

EPILOGUE

終章2級・1級、そして実務へ

利益は同じ1,000万円。なのに、1社は上場し、1社は倒産した。

同じ利益を出した2つの会社の、正反対の運命。最後の問いを解く鍵は、本書で学んだすべての知識を組み合わせた先にある「第3の財務諸表」だ。21の問いを振り返り、2級・1級、そして経営の現場へと続く道を示す。

読了目安 25分難易度 ★★☆

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01序章の問いを、もう一度解く
  2. 02第3の財務諸表 ― キャッシュ・フロー計算書
  3. 03答え合わせ ― 運命を分けたのは「お金の流れ方」
  4. 0421の問いと、その答え ― 1枚の地図にする
  5. 05この先の道 ― 2級・1級、そして実務へ

QUESTION ― この章の問い

同じ利益、正反対の運命

ある年、京都で創業した2つの会社が、そろって1,000万円の当期純利益を計上した。

1社は、飲食店向けに食材を卸す会社。もう1社は、24時間営業のフィットネスジム。業種は違うが、どちらも売上は伸び盛りで、利益の額もまったく同じだった。

5年後。ジムは新規店舗を次々と出し、株式市場への上場を果たした。一方、食材の卸売会社は、急成長の途中で資金が尽き、倒産した。

同じ年に、同じ利益を出した2社。損益計算書の最終行は、どちらも「1,000万円」だった。2社の運命を分けたものは、いったい何だったのか?

01序章の問いを、もう一度解く

最終章の問いに挑む前に、序章に戻ろう。行列の絶えない定食屋「まんぷく食堂」は、なぜ黒字のまま倒産したのか。

序章を読んだときのあなたは、「利益と現金は違う」という言葉を、まだ実感をもって理解できなかったかもしれない。だが今のあなたは、その意味を勘定科目のレベルで説明できるはずだ。

まんぷく食堂の「お金の出口」を、勘定科目で説明する
お金の出口仕訳利益への影響学んだ章
新店の内装・厨房設備建物・備品 / 普通預金買った年は影響なし。減価償却で少しずつ費用に第12章
新店の保証金差入保証金 / 普通預金影響なし(資産のまま)第9章
借入金の元本返済借入金 / 普通預金影響なし(負債の減少)第9章
食材在庫の増加仕入 / 買掛金など(期末に繰越商品へ)期末在庫は費用にならない第5章
法人税等の納付未払法人税等 / 普通預金前期に費用計上済み第14章

どの仕訳も、借方は費用ではなく、資産の増加か負債の減少だ。だから利益は減らない。しかし貸方は「普通預金」。お金は確実に出ていく。まんぷく食堂のオーナーに足りなかったのは、この仕訳の両側を同時に見る目だった。複式簿記とは、まさにその目のことなのだ。

02第3の財務諸表 ― キャッシュ・フロー計算書

損益計算書は「利益」を、貸借対照表は「財産の状態」を表す。そして、1年間の「現金の増減」を、その原因別に表すのが、第3の財務諸表、キャッシュ・フロー計算書だ(本格的には1級で学ぶ)。

キャッシュ・フロー計算書は、現金の動きを3つに分けて示す。

キャッシュ・フロー計算書の3つの区分
区分内容主な例
営業活動によるキャッシュ・フロー本業で稼いだ(失った)現金商品の販売・仕入、給料・経費の支払い、法人税等の支払い
投資活動によるキャッシュ・フロー将来のための投資に使った(回収した)現金固定資産の購入・売却、貸付けと回収
財務活動によるキャッシュ・フロー資金の調達と返済借入れと返済、株式の発行、配当の支払い

なかでも重要なのが、営業活動によるキャッシュ・フローだ。これは、当期純利益から出発して、「利益とお金のズレ」を調整する形で計算できる(間接法)。

FORMULA ― 公式

営業活動によるキャッシュ・フロー(間接法・3級の知識で読める簡略版)

当期純利益

+ 減価償却費(お金が出ていかない費用)

- 売掛金などの増加(売れたが、まだ入金されていない)

- 在庫の増加(お金が商品の形で眠っている)

+ 買掛金などの増加(仕入れたが、まだ支払っていない)

+ 前受金・前受収益の増加(サービス提供前に入金された)

どの項目も、あなたはすでに知っている。減価償却費は第12章、売掛金は第7章、在庫は第5章、前受収益は第15章で学んだ。キャッシュ・フロー計算書とは、本書で学んだ「利益と現金のズレ」を、1枚の表に整理したものにすぎない。

03答え合わせ ― 運命を分けたのは「お金の流れ方」

ANSWER ― 答え合わせ

2社の「第3の財務諸表」を並べてみる

同じ1,000万円の利益を出した年の、2社のキャッシュ・フローを比べてみよう(単位:万円、簡略化)。

利益は同じ。キャッシュ・フローは正反対
項目食材の卸売会社24時間ジム
当期純利益1,0001,000
+ 減価償却費2001,500
- 売掛金の増加△2,5000
- 在庫の増加△6000
+ 買掛金の増加7000
+ 前受収益(年払い会費)の増加0900
営業活動によるキャッシュ・フロー△1,2003,400
投資活動(冷蔵倉庫/新店のマシン)△800△3,000
財務活動(短期の借入れ)2,0000
現金の増減0400

卸売会社は、売上が伸びるほど売掛金と在庫が膨らみ(第7章)、本業で現金を失っていた。利益は出ているのに、営業活動のキャッシュ・フローはマイナス1,200万円。足りない現金を、銀行からの短期の借入れで埋め続けていた。そして数年後、金利の上昇と取引先の貸倒れ(第11章)が重なり、銀行が追加の融資を断ったとき、会社は資金繰りに行き詰まった。

ジムは、会費を前払いで受け取り(第15章)、在庫も売掛金もほとんどない。高額なマシンの減価償却費(第12章)はお金が出ていかない費用だから、利益以上の現金が手元に残る。営業活動で生んだ3,400万円で、新店のマシン3,000万円を自分の力でまかない、借金に頼らずに成長を続けた。

2社の運命を分けたのは、利益の額ではない。利益が、どんな形で手元に残るか――つまり、ビジネスモデルが生み出すお金の流れ方だったのである。

0421の問いと、その答え ― 1枚の地図にする

本書で解いてきた問いを振り返ろう。どの問いの答えも、簿記の1つのルールに対応している。

本書の21の問い
章問い答えの鍵
序章満席の人気店が、黒字のまま倒産した利益と現金は別物。設備・保証金・返済・在庫・税金
第1章口座に1億円ある会社は、金持ちか豊かさは純資産(資産-負債)で測る
第2章1億円の契約は記録せず、30万円の盗難は記録する簿記上の取引=財産の増減
第3章レジの3,200円の不足、犯人は誰か現金過不足。疑う前に記録する
第4章残高ゼロの口座から500万円が払えた当座借越。マイナス残高は借金
第5章過去最高の売上なのに、利益が半分以上消えた仕入≠売上原価。しーくりくりしー
第6章同じ牛肉で、利益が2つある先入先出法と移動平均法。継続性の原則
第7章売れたのに、口座にお金がない売掛金と運転資金。CCC
第8章紙切れ1枚で黒字の会社が倒れた手形の不渡りと連鎖倒産
第9章バスの代金は買掛金ではない商品以外の後払いは未払金
第10章時給1,250円のバイトの本当のコスト深夜割増と法定福利費
第11章1,000万円の貸倒れで、損失は550万円貸倒引当金。費用収益対応
第12章5,000万円のバスを買っても赤字にならない減価償却。費用配分の原則
第13章赤字のSaaSに30億円が集まった資本金と、赤字の「質」
第14章年商2億円の店が消費税を払えない消費税は預かったお金
第15章年会費の前受けは売上ではない発生主義と経過勘定
第16章3年間の横領が1枚の紙で暴かれた証ひょうの照合と職務分掌
第17章1,000件の仕訳から1つのミスを探す試算表と差額の推理
第18章決算日の夜、利益が書き換わる決算整理と精算表
第19章帳簿の半分は消え、半分は残るフローとストック、繰越利益剰余金
終章同じ利益で、上場と倒産に分かれた第3の財務諸表、キャッシュ・フロー
1年間の動き(フロー)
期末の状態(ストック)
損益計算書
収益-費用=当期純利益
キャッシュ・フロー計算書
現金の増減とその理由
(期首の貸借対照表から出発)
貸借対照表
繰越利益剰余金+当期純利益
貸借対照表
現金預金=期首+現金の増減
簿記の全体像 ― 3枚の財務諸表は1つにつながっている

損益計算書の当期純利益は、貸借対照表の繰越利益剰余金に流れ込む(第19章)。キャッシュ・フロー計算書の現金の増減は、貸借対照表の現金預金の変化と一致する。3枚の財務諸表は、複式簿記という1つのエンジンから生まれた、同じ会社の3つの顔なのだ。

THINK ― 判断してみよう

就職・転職・投資の前に、決算書のどこを見るか

あなたは、ある会社への転職を考えている(あるいは、その会社の株を買おうとしている)。決算書を手に入れた。限られた時間で、どこを見れば、その会社の「本当の姿」に近づけるだろうか?

考え方の例を見る▼

本書の知識を使えば、次の5つの問いで、多くのことが分かる。

  1. 売上は伸びているか、粗利率は保たれているか(損益計算書):売上の成長と、売上総利益率の推移を見る。売上が伸びても粗利率が下がり続けていれば、値下げで売上を買っている可能性がある(第5章)。
  2. 利益と営業キャッシュ・フローは見合っているか(キャッシュ・フロー計算書):利益が出ているのに、営業活動のキャッシュ・フローが何年もマイナスなら要注意だ(終章)。
  3. 売掛金と在庫は、売上以上に膨らんでいないか(貸借対照表):回収日数や在庫日数の悪化は、資金繰りの悪化や、時に粉飾のサインになる(第5・7章)。
  4. 自己資本比率は十分か、債務超過ではないか(貸借対照表):借金に頼りすぎていないかを見る(第1章)。
  5. 手元の現金預金と借入金のバランスはどうか(貸借対照表):借入金から現金預金を引いた「実質的な借金」が、稼ぐ力に比べて重すぎないかを見る。

決算書は、会社が世界に向けて出している、最も正直な手紙だ。読み方を知っている人にだけ、その手紙の行間が見える。

05この先の道 ― 2級・1級、そして実務へ

3級で手に入れたのは、簿記というOSだ。この上に、さらに強力なアプリケーションをインストールしていくことができる。

2級で学ぶ主な内容
分野主な論点本書とのつながり
商業簿記連結会計おかわり堂とケータリング子会社のグループ決算(第18章)
商業簿記税効果会計会計上の利益と税金の計算のズレ(第14章)
商業簿記リース会計・ソフトウェアバスのリース、ゲーム開発費の資産計上(第12章)
商業簿記有価証券・外貨建取引余剰資金の運用、輸入牛肉の為替リスク
商業簿記収益認識ジムの年会費、乗車券の前受け(第9・15章)
商業簿記引当金・株主資本等変動計算書賞与・退職金への備え、純資産の変動(第10・13章)
工業簿記原価計算おかわり堂のセントラルキッチンで作る惣菜の原価
工業簿記標準原価計算・CVP分析原価差異の分析、深夜営業の損益分岐点(第10章)

1級では、会計基準の背後にある理論、企業結合や連結の高度な論点、キャッシュ・フロー計算書、そして経営判断のための管理会計を学ぶ。その先には、公認会計士や税理士、企業の経理・財務部門など、会社の数字を扱う仕事への道が続いている。

3級合格までのラストスパート

  1. 1

    本書の確認問題をもう一度解く

    間違えた問題の章だけを読み直す。問いと答え合わせを思い出せば、ルールも思い出せる

  2. 2

    付録Cの仕訳道場を3周する

    1問30秒を目標に。第1問の45点はここで決まる

  3. 3

    付録Bの攻略法を読み、付録Dの模擬試験を解く

    60分を計って、第1問→第3問→第2問の順で解き、採点結果から復習する章を決める

  4. 4

    試験の直前は「緑のボックス」だけを読む

    各章の「試験の急所」に、出題のポイントが凝縮されている


最後に、ひとつだけ伝えたい。

簿記は、過去の取引を記録する技術だ。だが、本書の21の問いが示したとおり、その記録は、会社の未来を左右する。黒字倒産も、粉飾も、連鎖倒産も、上場も――すべては、日々の仕訳の積み重ねの先にある。

経済のルールは、これからも変わり続ける。紙の手形は消え、決済は電子化され、AIが仕訳を自動で切る時代が来た。それでも、500年前にヴェネツィアの商人が手にした「左右に分けて記録する」という仕組みの価値は、少しも色あせていない。むしろ、数字があふれる時代だからこそ、その数字の意味を読み解ける人の価値は、ますます高まっていく。

あなたはもう、決算書を読める。

次は、その数字を自分の手で作り、より良く変えていく側に立つ番だ。

SUMMARY

本書のまとめ

  • ✓簿記は、会社の成績と財産を表す財務諸表を作り、読むための技術である
  • ✓利益と現金は違う。その違いを生むのは、設備投資・在庫・売掛金・借入金・税金・前受けなどの「時間差」
  • ✓すべての取引を左右2つの側面から記録する複式簿記は、誤りと不正を見つけ、利益と財産を同時に計算する
  • ✓決算整理は、お金の動きの記録を、発生主義にもとづく真実の利益へと翻訳する
  • ✓損益計算書・貸借対照表・キャッシュ・フロー計算書は、1つの会社の3つの顔。必ずつなげて読む
  • ✓3級は終点ではなく、2級・1級、そして経営の現場へと続く道の入口である