第6部 国家と時間
消費税は「預かったお金」。それを使い込んだ会社の末路
行列のできるラーメン店が、たった1枚の納付書で窮地に立たされた。会社が払う税金は、費用になる税金、利益にかかる税金、そして客から預かる税金の3種類。とりわけ消費税の仕組みを知らない経営者は、知らないうちに「他人のお金」を使い込んでいる。
GOALS
この章で学ぶこと
- ▸会社が負担する税金を3種類に分類できる
- ▸固定資産税・印紙税などの租税公課の仕訳ができる
- ▸法人税等の中間納付・決算・確定納付の仕訳ができる
- ▸消費税(税抜方式)の仕訳と、決算での未払消費税の計算ができる
- ▸消費税が資金繰りに与える影響を説明できる
この章の目次▼
QUESTION ― この章の問い
年商2億円の人気店を追い詰めた、1枚の納付書
京都・四条烏丸。濃厚な鶏白湯スープで行列が絶えないラーメン店「麺屋とりの巣」は、市内に5店舗を構え、年間の売上は税込で2億2,000万円に達していた。
決算から2か月後。経営者のもとに、その年の消費税の納付期限が迫っていた。納めるべき消費税は1,200万円。
ところが、会社の預金口座には300万円しかなかった。
売上は過去最高。店はいつも満席。不正もない。それなのに、なぜ1,200万円が払えないのか。そもそも、この1,200万円は、いったい誰のお金だったのか?
01会社が払う税金は、3種類に分けて考える
問いに入る前に、会社に関わる税金を整理しておこう。簿記では、税金を次の3つに分けて処理する。
| 分類 | 主な税金 | 勘定科目 |
|---|---|---|
| ①費用になる税金 | 固定資産税、自動車税、印紙税 | 租税公課(費用) |
| ②利益にかかる税金 | 法人税、住民税、事業税 | 法人税、住民税及び事業税 |
| ③預かる税金 | 消費税、源泉所得税 | 仮受消費税・仮払消費税、所得税預り金 |
①は、事業を営むために払う「経費」としての税金。②は、会社が稼いだ利益に対してかかる税金。③は、会社が負担するのではなく、客や従業員が負担する税金を、会社が一時的に預かって納める税金だ。この区別が、問いを解く鍵になる。
02費用になる税金 ― 租税公課
固定資産税は、土地・建物・事業用の設備などを持っていることに対してかかる税金だ。自動車税は自動車の所有者に、印紙税は領収書や契約書などの文書を作ったときにかかる(収入印紙を貼って納める)。
これらは、事業を営むための経費と同じ性質なので、租税公課(そぜいこうか・費用)で処理する。
例題ナイトオウル交通の租税公課
(1) 車庫の土地・建物に対する固定資産税の納税通知書(年税額1,200,000円)を受け取り、第1期分300,000円を普通預金から納付した。
(2) バス20台分の自動車税1,000,000円を、普通預金から納付した。
(3) 貸切バスの代金の領収書に貼るため、収入印紙20,000円分を現金で購入した。
解答・解説を見る▼
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 租税公課 | 300,000 | 普通預金 | 300,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 租税公課 | 1,000,000 | 普通預金 | 1,000,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 租税公課 | 20,000 | 現金 | 20,000 |
※固定資産税の納税通知書を受け取った時点で、年税額の全額を「租税公課/未払金」と計上し、納付のつど未払金を減らす方法もある。問題文の指示に従おう。また、決算日に使わずに残っている収入印紙や郵便切手は、「貯蔵品」として資産に振り替える(第15章)。
03利益にかかる税金 ― 法人税、住民税及び事業税
会社が利益を出すと、その利益に対して法人税(国税)、住民税(地方税)、事業税(地方税)がかかる。簿記では、この3つをまとめて法人税、住民税及び事業税(法人税等)という勘定で処理する。
法人税等は、決算で利益が確定してから計算する。ただし、前期の税額が一定以上の会社は、期の途中で、前期の実績をもとにした税額の半分ほどを先に納める(中間申告・中間納付)。
法人税等の1年間の流れ
- 1
期の途中:中間納付
前期の実績などにもとづき、税額の一部を先に納める。まだ当期の税額は確定していないので「仮払法人税等」(資産)とする
- 2
決算日:当期の税額を計上
当期の利益にもとづく年税額を「法人税、住民税及び事業税」(費用)として計上し、中間納付額を差し引いた残りを「未払法人税等」(負債)とする
- 3
決算後:確定申告・納付
原則として決算日から2か月以内に申告し、未払法人税等を納付する
例題ナイトオウル交通の法人税等
(1) 11月、法人税等の中間申告を行い、6,000,000円を普通預金から納付した。
(2) 3月31日の決算で、当期の法人税等の年税額が14,000,000円と計算された。
(3) 5月、確定申告を行い、未払分を普通預金から納付した。
解答・解説を見る▼
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仮払法人税等 | 6,000,000 | 普通預金 | 6,000,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 法人税、住民税及び事業税 | 14,000,000 | 仮払法人税等 | 6,000,000 |
| 未払法人税等 | 8,000,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未払法人税等 | 8,000,000 | 普通預金 | 8,000,000 |
04預かる税金 ― 消費税
いよいよ問いの核心、消費税だ。
| 段階 | 売値(税抜) | 受け取った消費税 | 支払った消費税 | 納める消費税 |
|---|---|---|---|---|
| 洛北ミート → おかわり堂 | 200円 | 20円 | 0円 | 20円 |
| おかわり堂 → 客 | 500円 | 50円 | 20円 | 30円 |
| 合計 | 50円(=客が負担した消費税) |
表は横にスクロールできます →
※実際には、食材の仕入れや持ち帰りの飲食料品には軽減税率(8%)が適用されるなど、取引ごとに税率が異なる。ここでは仕組みを示すため、税率を10%に統一している。
税抜方式の仕訳 ― 「仮払」と「仮受」で預かりを管理する
3級では、消費税を売上や仕入と区別して記録する税抜方式を学ぶ。
- 仕入れや経費で支払った消費税 → 仮払消費税(資産)
- 売上で受け取った消費税 → 仮受消費税(負債)
例題おかわり堂の消費税
(1) 洛北ミートから牛肉を仕入れ、代金440,000円(うち消費税40,000円)は掛けとした。
(2) 1日の売上は、店内飲食分が税抜500,000円(消費税10%)、持ち帰り分が税抜300,000円(消費税8%)で、代金は現金で受け取った。
解答・解説を見る▼
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入 | 400,000 | 買掛金 | 440,000 |
| 仮払消費税 | 40,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 874,000 | 売上 | 800,000 |
| 仮受消費税 | 74,000 |
売上・仕入は税抜の金額で記録し、消費税の部分は仮払消費税・仮受消費税として別に記録する。こうすることで、「預かっている消費税」と「支払った消費税」が帳簿の上で常に見えるようになる。
※牛丼チェーンでは、同じ牛丼でも店内で食べれば10%、持ち帰れば8%の消費税がかかる(軽減税率)。3級の試験では、問題文で示された税率(通常は10%)で計算すればよい。
決算 ― 差額が「納める消費税」になる
決算では、仮受消費税と仮払消費税を相殺し、その差額を未払消費税(負債)として計上する。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仮受消費税 | 5,200,000 | 仮払消費税 | 3,100,000 |
| 未払消費税 | 2,100,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未払消費税 | 2,100,000 | 普通預金 | 2,100,000 |
※仮払消費税のほうが多いときは、差額が税務署から還付される。この還付を受ける権利は「未収還付消費税」(資産)で処理する。
05答え合わせ ― 1,200万円は、最初から「客のお金」だった
ANSWER ― 答え合わせ
経営者は、預かったお金を自分の売上だと思って使っていた
麺屋とりの巣の年間売上、税込2億2,000万円。そのうち2,000万円は、客から預かった消費税だった。店の本当の売上(税抜)は2億円だ。
一方、食材や光熱費、家賃などの支払いに含まれていた消費税は800万円。差し引き1,200万円を、店は国に納めなければならない。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上で受け取った消費税(仮受消費税) | 2,000万円 |
| 仕入れ・経費で支払った消費税(仮払消費税) | △800万円 |
| 納めるべき消費税(未払消費税) | 1,200万円 |
経営者は、税込の売上がすべて店のお金だと思い、新店の内装や設備に次々と使っていた。だが、そのうち1,200万円は、最初から国に納めるために客から預かっていたお金だった。
しかもラーメン店は、売上に占める人件費の割合が高い。給料には消費税がかからないため、人件費が多い事業ほど、差し引ける消費税(仮払消費税)が少なくなり、納める消費税が大きくなる。
税抜方式で仮受消費税を毎日記録していれば、「このお金は預かりものだ」ということが、帳簿の上で常に見えていたはずだ。
THINK ― 判断してみよう
消費税で二度とつまずかないために
麺屋とりの巣の経営者から、相談を受けた。「来年からは同じ失敗をしたくない。どうすればいいか」。あなたなら、どんな仕組みを提案するか?
考え方の例を見る▼
ポイントは、「預かったお金」を物理的にも心理的にも切り離すことだ。
- 月次で未払消費税を計算する:毎月の試算表で、仮受消費税から仮払消費税を引き、その月に積み上がった「納めるべき消費税」を把握する。
- 納税用の口座に毎月積み立てる:計算した金額を、毎月、普段使いの口座とは別の「納税専用口座」に移す。この口座のお金には手をつけないルールにする。
- 中間納付を活用する:前年の納税額が一定以上の事業者は、消費税も期の途中に中間納付を行う。年1回の一括払いより、資金繰りの山が小さくなる。
- 資金繰り表に納税予定を入れる:法人税等と消費税の納付月は、毎年ほぼ決まっている。数か月先の資金繰り表に必ず織り込み、設備投資の計画と重ならないようにする。
そして、経営判断の場では、売上を税抜で語る習慣をつける。「年商2億2,000万円の店」ではなく「年商2億円の店」。それだけで、使ってよいお金の感覚は大きく変わる。
06確認問題
問1次の取引を仕訳しなさい。
(1) 本社建物の固定資産税の第2期分100,000円を、普通預金から納付した。
(2) 収入印紙5,000円を購入し、現金で支払った。
(3) 法人税等の中間申告を行い、1,500,000円を普通預金から納付した。
(4) 決算で、当期の法人税等が3,800,000円と計算された。中間納付額は1,500,000円である。
解答・解説を見る▼
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 租税公課 | 100,000 | 普通預金 | 100,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 租税公課 | 5,000 | 現金 | 5,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仮払法人税等 | 1,500,000 | 普通預金 | 1,500,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 法人税、住民税及び事業税 | 3,800,000 | 仮払法人税等 | 1,500,000 |
| 未払法人税等 | 2,300,000 |
問2消費税の税率を10%、税抜方式として、次の取引を仕訳しなさい。
(1) 商品を仕入れ、代金440,000円(税込)は掛けとした。
(2) 商品を販売し、代金770,000円(税込)は掛けとした。
(3) 決算にあたり、(1)(2)の消費税を整理した(ほかに消費税の取引はない)。
解答・解説を見る▼
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入 | 400,000 | 買掛金 | 440,000 |
| 仮払消費税 | 40,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 770,000 | 売上 | 700,000 |
| 仮受消費税 | 70,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仮受消費税 | 70,000 | 仮払消費税 | 40,000 |
| 未払消費税 | 30,000 |
問3次のうち、「租税公課」で処理しないものを1つ選びなさい。
ア.固定資産税 イ.収入印紙の購入 ウ.法人税の中間納付 エ.自動車税
解答・解説を見る▼
ウ。法人税の中間納付は「仮払法人税等」で処理する。
SUMMARY
この章のまとめ
- ✓税金は「費用になる税金(租税公課)」「利益にかかる税金(法人税等)」「預かる税金(消費税・源泉所得税)」の3つに分けて考える
- ✓固定資産税・自動車税・印紙税は租税公課(費用)
- ✓法人税等:中間納付は仮払法人税等、決算で年税額を計上し、残りを未払法人税等とする
- ✓消費税(税抜方式):支払った分は仮払消費税、受け取った分は仮受消費税。決算で相殺し、差額を未払消費税とする
- ✓消費税は客から預かったお金。税込売上を自分のお金と思うと、納付のときに資金が足りなくなる