簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第4部 信用という名の時限爆弾

第8章約束手形・電子記録債権・手形貸付金

紙切れ1枚が、黒字の会社を「即死」させる。

期日に必ず支払うと約束した証書、約束手形。その強力さゆえに、たった1枚の不渡りが連鎖倒産を引き起こしてきた。紙の手形から「でんさい」へ。日本の企業間決済の大転換期に、債権と債務の記録を学ぶ。

読了目安 30分難易度 ★★☆

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01約束手形 ― 「期日に必ず払います」という証書
  2. 02受取手形記入帳と支払手形記入帳
  3. 03答え合わせ ― 手形は「信用の連鎖」でできている
  4. 04電子記録債権・電子記録債務 ― 紙を使わない「手形」
  5. 05手形貸付金・手形借入金 ― お金の貸し借りに使う手形
  6. 06紙の手形の「終わり」と、試験への影響
  7. 07確認問題

QUESTION ― この章の問い

黒字の老舗精肉店は、なぜ1枚の紙で倒れたのか

京都・錦市場のほど近くに、創業70年の精肉店があった。料亭や割烹に高級和牛を卸し、決算は毎年黒字。借金もほとんどない優良企業だった。

ある年の秋、その店が倒産した。

引き金は、大口の得意先だった料亭グループの倒産だ。精肉店は、料亭グループから受け取っていた約束手形、合計2,800万円分を手元に持っていた。期日になれば、確実に現金化できるはずの手形だった。

だが、料亭グループの倒産で、それらの手形は1枚残らず不渡りになった。精肉店は、その手形の入金をあてにして、自らも畜産業者に手形を振り出していた。

入るはずの2,800万円が入らない。支払うはずの手形の期日は迫る。銀行は追加の融資を断った。そして——。

黒字で、借金もなかった老舗を倒したのは、たった数枚の「紙切れ」だった。なぜ、手形はこれほど恐ろしいのか?

01約束手形 ― 「期日に必ず払います」という証書

約束手形(やくそくてがた)とは、振り出した人(振出人)が、受け取った人(名あて人=受取人)に対して、決められた期日に、決められた金額を支払うことを約束する証書だ。

掛取引では、支払いの約束は口約束や請求書にすぎない。それに対して手形は、法律(手形法)にもとづく強力な証書で、期日に支払わなければ「不渡り」という重い制裁が待っている。だからこそ、受け取る側は安心して代金の受け取りを待つことができた。

約束手形の流れ

  1. 1

    おかわり堂が手形を振り出す

    洛北ミートから牛肉を仕入れ、代金として「3か月後の期日に支払う」約束手形を渡す

  2. 2

    洛北ミートが手形を受け取る

    期日まで手形を保管する。期日前に銀行で取立てを依頼する

  3. 3

    期日に決済される

    おかわり堂の当座預金から引き落とされ、洛北ミートの当座預金に入金される

手形の仕訳 ― 受け取ったら「受取手形」、振り出したら「支払手形」

商品売買の代金として手形を受け取ったら受取手形(資産)、振り出したら支払手形(負債)で処理する。

例題おかわり堂と洛北ミートの手形取引

(1) おかわり堂は、洛北ミートから牛肉800,000円を仕入れ、代金は約束手形を振り出して支払った。

(2) 3か月後の期日に、(1)の手形が決済され、おかわり堂の当座預金から引き落とされた(洛北ミートの当座預金に入金された)。

それぞれ、おかわり堂と洛北ミートの仕訳をしなさい。

解答・解説を見る▼
仕訳(1) おかわり堂(手形を振り出した=支払手形の増加)
借方科目金額貸方科目金額
仕入800,000支払手形800,000
仕訳(1) 洛北ミート(手形を受け取った=受取手形の増加)
借方科目金額貸方科目金額
受取手形800,000売上800,000
仕訳(2) おかわり堂(手形代金を支払った=支払手形の減少)
借方科目金額貸方科目金額
支払手形800,000当座預金800,000
仕訳(2) 洛北ミート(手形代金を受け取った=受取手形の減少)
借方科目金額貸方科目金額
当座預金800,000受取手形800,000
仕訳洛北ミートは、居酒屋チェーンAに対する売掛金1,200,000円について、同社振出の約束手形を受け取った
借方科目金額貸方科目金額
受取手形1,200,000売掛金1,200,000
仕訳居酒屋チェーンA側の仕訳(買掛金の支払いのため約束手形を振り出した)
借方科目金額貸方科目金額
買掛金1,200,000支払手形1,200,000

02受取手形記入帳と支払手形記入帳

手形は、1枚ごとに振出人、期日、支払場所(銀行)、金額が異なる。そこで、手形の明細を1枚ずつ記録する補助簿として、受取手形記入帳と支払手形記入帳を設ける。

受取手形記入帳(洛北ミート)
日付手形種類手形番号摘要支払人振出人振出日満期日支払場所手形金額てん末
6/10約手18売上おかわり堂おかわり堂6/109/10京都中央銀行800,0009/10 入金
7/31約手25売掛金居酒屋A居酒屋A7/3110/31洛北信用金庫1,200,000

表は横にスクロールできます →

※「摘要」欄には、手形を受け取ったときの仕訳の相手勘定(売上・売掛金など)が書かれる。「てん末」欄には、その手形がどうなったか(入金・不渡りなど)を記入する。第2問では、この記入帳から仕訳を読み取る問題がよく出る。たとえば上の1行目からは「受取手形 800,000 / 売上 800,000」と「当座預金 800,000 / 受取手形 800,000」の2つの仕訳が読み取れる。

03答え合わせ ― 手形は「信用の連鎖」でできている

ANSWER ― 答え合わせ

不渡りは、ドミノのように倒れていく

老舗精肉店を倒したのは、手形の強制力そのものだった。

精肉店は、料亭グループから受け取った手形の入金を前提に、自らも畜産業者へ手形を振り出していた。手形を受け取った側は、さらにその入金をあてにして、別の支払いの計画を立てる。手形は、多くの会社の資金繰りを数珠つなぎにしていたのである。

料亭グループが倒れると、受取手形2,800万円は一瞬で回収不能になった。それでも、精肉店が振り出した手形は、期日に必ず決済しなければならない。払えなければ不渡りだ。銀行は「回収不能の手形を抱えた会社」に追加融資をしなかった。こうして、黒字の精肉店も不渡りを出し、連鎖倒産に至った。

手形は、期日に支払われる限り、強力で便利な道具だ。しかしその強制力は、裏を返せば「1社の倒産が、手形でつながった会社を次々と道連れにする」仕組みでもあった。

04電子記録債権・電子記録債務 ― 紙を使わない「手形」

紙の手形には、作成・保管・郵送の手間や、紛失・盗難のリスク、収入印紙の負担があった。そこで生まれたのが、電子記録債権だ。

電子記録債権は、銀行などが参加する電子債権記録機関のシステムに「発生記録」を登録することで生まれる、電子的な債権だ。代表的なものに、全国銀行協会が設立した「でんさいネット」がある。紙の手形と同じように期日に自動決済され、支払われなければ不渡りと同様の制裁(取引停止処分)がある。

紙の手形と電子記録債権の比較
項目約束手形電子記録債権
形紙の証書電子債権記録機関の記録
発生のさせ方手形を振り出して渡す取引銀行を通じて発生記録を請求する
収入印紙必要(金額による)不要
紛失・盗難のリスクあるない
分割できない必要な金額だけ分割して譲渡・割引できる
債権者の勘定受取手形電子記録債権
債務者の勘定支払手形電子記録債務

例題洛北ミートと電子記録債権

(1) おかわり堂は、洛北ミートに対する買掛金500,000円の支払いのため、取引銀行を通じて電子記録債務の発生記録を行った。洛北ミートは、取引銀行から電子記録債権の発生記録の通知を受けた。

(2) 支払期日が到来し、おかわり堂の当座預金から洛北ミートの当座預金に500,000円が支払われた。

それぞれの仕訳をしなさい。

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仕訳(1) おかわり堂(買掛金が電子記録債務に変わる)
借方科目金額貸方科目金額
買掛金500,000電子記録債務500,000
仕訳(1) 洛北ミート(売掛金が電子記録債権に変わる)
借方科目金額貸方科目金額
電子記録債権500,000売掛金500,000
仕訳(2) おかわり堂(期日に決済)
借方科目金額貸方科目金額
電子記録債務500,000当座預金500,000
仕訳(2) 洛北ミート(期日に入金)
借方科目金額貸方科目金額
当座預金500,000電子記録債権500,000

05手形貸付金・手形借入金 ― お金の貸し借りに使う手形

手形は、商品売買の代金の支払いだけでなく、お金の貸し借りにも使われる。借りる側が、貸す側に対して約束手形を振り出して渡すのだ。こうして手形を使ってお金を貸し借りしたときは、商品売買の手形と区別して、手形貸付金(資産)・手形借入金(負債)で処理する。

銀行から短期の運転資金を借りるときに、手形を差し入れる方法(手形貸付)がよく使われてきた。

例題洛北ミートの手形借入れ

(1) 洛北ミートは、京都中央銀行から運転資金3,000,000円を借り入れ、同額の約束手形を振り出して渡した。利息45,000円を差し引かれた残額が当座預金に入金された。

(2) 期日に、借入金を当座預金から返済した。

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仕訳(1) 手形を振り出してお金を借りた(利息は先に差し引かれた)
借方科目金額貸方科目金額
当座預金2,955,000手形借入金3,000,000
支払利息45,000
仕訳(2) 返済
借方科目金額貸方科目金額
手形借入金3,000,000当座預金3,000,000
仕訳貸す側(手形を受け取ってお金を貸した)の例:取引先に現金500,000円を貸し付け、同額の約束手形を受け取った
借方科目金額貸方科目金額
手形貸付金500,000現金500,000

06紙の手形の「終わり」と、試験への影響

日本の企業間決済は、いま大きな転換点にある。

手形・小切手をめぐる主な動き

  1. 2013年

    でんさいネットが業務を開始

    電子記録債権の普及が始まる

  2. 2022年11月

    全国の手形交換所が「電子交換所」に移行

    紙の手形・小切手の交換を電子化

  3. 2026年1月

    改正下請法(取適法)が施行

    対象取引での手形払いが禁止される

  4. 2027年3月末

    紙の手形・小切手の利用廃止(予定)

    金融界が電子的な決済手段への全面移行をめざす

  5. 2027年4月

    簿記検定の新しい出題区分表(暫定版)を適用

    3級の「手形」の区分は削除され、電子記録債権・債務は売掛金・買掛金の区分に整理される見込み

※2026年度(2027年3月まで)の試験では、約束手形・受取手形記入帳・支払手形記入帳・手形貸付金・手形借入金は引き続き出題範囲に含まれる。2027年4月以降に受験する人は、日本商工会議所が公表する最新の出題区分表を必ず確認しよう。電子記録債権・電子記録債務は、2027年度以降も3級の範囲に残る見込みだ。

THINK ― 判断してみよう

手形をやめて、得意先に「でんさい」を勧めるべきか

洛北ミートは、一部の大口得意先から、いまだに紙の手形で代金を受け取っている。経理部からは「手形は保管や取立ての手間がかかるし、紛失も怖い。でんさいに切り替えてもらいましょう」という声が上がっている。一方で営業部は「支払方法の変更を頼んだら、取引に影響するかもしれない」と渋っている。あなたなら、どう判断するか?

考え方の例を見る▼

結論は「切り替えを進める」だ。ただし、その本当の理由は事務の手間だけではない。

  • 制度の流れ:紙の手形・小切手は2027年3月末で利用廃止が予定されている。いずれ切り替えは避けられない。得意先にとっても印紙代や事務負担が減るメリットがあり、「お互いのため」として提案できる。
  • 資金繰りの柔軟性:電子記録債権は、必要な金額だけを分割して、期日前に資金化(割引)したり、仕入先への支払いに充てたり(譲渡)できる。運転資金の調達手段が増える。
  • より根本的な問い:そもそも、なぜ回収まで何か月も待つ条件を受け入れているのか。第7章で見たとおり、回収サイトの長さは運転資金を膨らませる。切り替えの交渉を機に、回収サイトそのものの短縮も提案したい。取適法の施行で、長い手形サイトを見直す機運は高まっている。

営業部の懸念に対しては、「支払方法の変更は、業界全体の流れであり、得意先の負担も軽くなる」という事実を、経理部と一緒に説明しに行くのがよいだろう。

07確認問題

問1次の取引を仕訳しなさい。

(1) 商品600,000円を仕入れ、代金は約束手形を振り出して支払った。

(2) 売掛金450,000円の回収として、得意先振出の約束手形を受け取った。

(3) (2)の手形が期日に決済され、当座預金に入金された。

(4) 買掛金300,000円の支払いのため、取引銀行を通じて電子記録債務の発生記録を行った。

(5) 取引先に現金1,000,000円を貸し付け、同額の約束手形を受け取った。

解答・解説を見る▼
仕訳(1)
借方科目金額貸方科目金額
仕入600,000支払手形600,000
仕訳(2)
借方科目金額貸方科目金額
受取手形450,000売掛金450,000
仕訳(3)
借方科目金額貸方科目金額
当座預金450,000受取手形450,000
仕訳(4)
借方科目金額貸方科目金額
買掛金300,000電子記録債務300,000
仕訳(5) お金の貸付けなので「手形貸付金」
借方科目金額貸方科目金額
手形貸付金1,000,000現金1,000,000

問2次の支払手形記入帳の記入から、(1)6月15日と(2)9月15日の仕訳をしなさい。

支払手形記入帳:日付6/15、手形種類 約手、手形番号12、摘要「買掛金」、受取人「洛北ミート」、振出日6/15、満期日9/15、手形金額700,000円、てん末「9/15 当座預金から支払い」

解答・解説を見る▼
仕訳(1) 6/15:買掛金の支払いのために約束手形を振り出した
借方科目金額貸方科目金額
買掛金700,000支払手形700,000
仕訳(2) 9/15:満期日に当座預金から決済された
借方科目金額貸方科目金額
支払手形700,000当座預金700,000

問3銀行から2,000,000円を借り入れ、同額の約束手形を振り出した。利息30,000円が差し引かれ、残額が普通預金に入金された。仕訳をしなさい。

解答・解説を見る▼
借方科目金額貸方科目金額
普通預金1,970,000手形借入金2,000,000
支払利息30,000

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓約束手形は、期日に支払うことを約束する強力な証書。受け取ったら受取手形(資産)、振り出したら支払手形(負債)
  • ✓手形の不渡りは、取引先を道連れにする「連鎖倒産」の引き金になってきた
  • ✓受取手形記入帳・支払手形記入帳は手形の明細を記録する補助簿。「摘要」と「てん末」から仕訳を読み取る
  • ✓電子記録債権・債務は、紙の手形に代わる電子的な債権・債務。仕訳の形は手形と同じ
  • ✓お金の貸し借りに使う手形は、手形貸付金・手形借入金で処理する
  • ✓2026年1月の取適法施行で下請取引の手形払いが禁止され、紙の手形・小切手は2027年3月末で利用廃止の予定。2027年度の試験から「手形」の区分は削除される見込み