簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第4部 信用という名の時限爆弾

第9章その他の債権・債務

5,000万円のバスの代金は、なぜ「買掛金」ではないのか?

勘定科目を1つ間違えただけで、銀行は「支払いを滞らせている会社」と誤解する。貸付金・借入金、未収入金・未払金、前払金・前受金、仮払金・仮受金、差入保証金――本業以外の債権・債務を正しく使い分けよう。

読了目安 35分難易度 ★★☆

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01「本業の商品」か、「それ以外」か ― 未収入金と未払金
  2. 02貸付金と借入金 ― 利息は「月割」で計算する
  3. 03前払金と前受金 ― 「手付金」と「内金」
  4. 04仮払金と仮受金 ― 「とりあえず」記録しておく勘定
  5. 05差入保証金 ― 返ってくるはずのお金
  6. 06確認問題

QUESTION ― この章の問い

1日も遅れていない支払いを、なぜ銀行は疑ったのか

3月下旬、ナイトオウル交通は、新型の3列独立シート車両を2台、計1億円で購入した。代金は、納車の翌月末に一括で支払う契約だ。

決算を終えて1か月。メインバンクの審査部から、硬い声で電話が入った。

「御社の決算書を拝見しました。買掛金が1億2,000万円もありますね。月々の仕入れや外注の規模からすると、何か月分にもなる。仕入先への支払いが、相当滞っているのではありませんか? 追加融資の判断は、いったん保留させてください」

社長は耳を疑った。ナイトオウル交通は、どの取引先にも1日たりとも支払いを遅らせたことはない。バスの代金も、約束どおり4月末にきちんと支払った。

なぜ銀行は、存在しない「支払遅延」を疑ったのか?

01「本業の商品」か、「それ以外」か ― 未収入金と未払金

第7章で、商品売買の後払いには売掛金・買掛金を使うと学んだ。では、商品以外のものを後払いで売買したら、どうなるか。

ナイトオウル交通にとって、バスは「売るための商品」ではない。運行に使い続けるための設備だ。このように、本業の商品以外のものを後払いで買ったときの支払義務は未払金(負債)、後払いで売ったときの代金を受け取る権利は未収入金(資産)で処理する。

後払い・後受けの勘定科目の使い分け
取引の対象後で受け取る権利(資産)後で支払う義務(負債)
本業の商品の売買売掛金買掛金
商品以外のもの(固定資産・消耗品など)の売買未収入金未払金

例題ナイトオウル交通の未払金・未収入金

(1) 3月25日、新型バス2台を100,000,000円で購入し、納車を受けた。代金は4月末に支払う。

(2) 4月30日、(1)の代金を普通預金から支払った。

(3) 本社で不要になった応接セット(備品、帳簿価額80,000円)を、80,000円で中古家具店に売却し、代金は翌月に受け取ることにした。

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仕訳(1) バスは商品ではない → 未払金
借方科目金額貸方科目金額
車両運搬具100,000,000未払金100,000,000
仕訳(2) 未払金の支払い
借方科目金額貸方科目金額
未払金100,000,000普通預金100,000,000
仕訳(3) 備品も商品ではない → 未収入金
借方科目金額貸方科目金額
未収入金80,000備品80,000

(3)は、帳簿価額と同額で売却したので売却による損益は生じない。固定資産の売却で損益が出るケースは第12章で学ぶ。

ANSWER ― 答え合わせ

新人の「1行のミス」が、融資を止めた

決算書を調べ直すと、原因はすぐに見つかった。入社1年目の経理担当者が、バス2台の購入代金1億円を買掛金で処理していたのだ。本来の買掛金は2,000万円しかなかった。

銀行は、決算書の買掛金を「本業の仕入れや外注に対する未払い」として分析する。仕入れの規模に比べて買掛金が異常に大きければ、「仕入先への支払いが滞っている=資金繰りが苦しい」というシグナルと受け取るのは当然だ。

バスの代金は未払金だった。正しく処理されていれば、銀行は「設備投資の代金が期末時点で未払いになっているだけ」と一目で理解できたはずだ。

勘定科目は、単なるラベルではない。決算書を読む人に「この債務は何のための債務か」を伝える情報なのだ。訂正した決算書を持って銀行に説明に行き、融資は無事に実行された。

02貸付金と借入金 ― 利息は「月割」で計算する

お金を貸したときの、返してもらう権利は貸付金(資産)。お金を借りたときの、返す義務は借入金(負債)だ。利息は、受け取れば受取利息(収益)、支払えば支払利息(費用)になる。

FORMULA ― 公式

利息の計算(月割)

利息 = 元金 × 年利率 × 貸借期間の月数 ÷ 12

例題ナイトオウル交通の貸付金と借入金

(1) 10月1日、グループの車両整備会社に、2,000,000円を期間6か月・年利率3%で貸し付け、普通預金から振り込んだ。

(2) 翌年3月31日、(1)の貸付金が、利息とともに普通預金に返済された。

(3) 銀行から10,000,000円を期間1年・年利率2.4%で借り入れ、普通預金に入金された。

(4) (3)の借入金を、1年後に利息とともに普通預金から返済した。

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仕訳(1) 貸付け
借方科目金額貸方科目金額
貸付金2,000,000普通預金2,000,000
仕訳(2) 返済を受けた:利息は 2,000,000×3%×6/12=30,000円
借方科目金額貸方科目金額
普通預金2,030,000貸付金2,000,000
受取利息30,000
仕訳(3) 借入れ
借方科目金額貸方科目金額
普通預金10,000,000借入金10,000,000
仕訳(4) 返済:利息は 10,000,000×2.4%×12/12=240,000円
借方科目金額貸方科目金額
借入金10,000,000普通預金10,240,000
支払利息240,000

※日数で利息を計算するよう指示がある場合は「元金×年利率×日数÷365」とする。

相手が役員・従業員なら、専用の勘定を使う

お金の貸し借りの相手が、会社の役員(取締役など)や従業員の場合は、取引先や銀行との貸し借りと区別して、次の勘定を使う。決算書の読み手にとって、「会社のお金が役員個人に流れていないか」「役員が会社の資金繰りを支えているか」は重要な情報だからだ。

役員・従業員との貸し借り
相手貸したとき(資産)借りたとき(負債)
役員(取締役など)役員貸付金役員借入金
従業員従業員貸付金-

例題おかわり堂の役員・従業員との貸し借り

(1) 店長候補の従業員に、引っ越し資金として300,000円を貸し付け、普通預金から振り込んだ。

(2) 資金繰りが苦しかった創業期、社長個人から運転資金5,000,000円を借り入れ、普通預金に入金された。

(3) 取締役の1人に、1,000,000円を貸し付け、現金で渡した。

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仕訳(1) 従業員への貸付け
借方科目金額貸方科目金額
従業員貸付金300,000普通預金300,000
仕訳(2) 役員(社長)からの借入れ
借方科目金額貸方科目金額
普通預金5,000,000役員借入金5,000,000
仕訳(3) 役員への貸付け
借方科目金額貸方科目金額
役員貸付金1,000,000現金1,000,000

中小企業では、社長が個人のお金を会社に貸して資金繰りを支えることがよくある。それが役員借入金だ。逆に、会社のお金を役員に貸している役員貸付金が大きい会社は、銀行から「会社の資金が私的に使われていないか」と厳しく見られる。

03前払金と前受金 ― 「手付金」と「内金」

商品を注文するときに、代金の一部を先に払うことがある。これを手付金や内金という。先に支払ったお金は、後で商品を受け取る権利として前払金(資産)、先に受け取ったお金は、後で商品を引き渡す義務として前受金(負債)で処理する。

例題おかわり堂の新米の契約

(1) おかわり堂は、京都・丹波の農家と、新米10トン(代金3,600,000円)の購入契約を結び、手付金500,000円を普通預金から支払った。

(2) 秋に新米10トンが納品された。代金のうち手付金を差し引いた残額は、掛けとした。

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仕訳(1) 手付金の支払い:前払金(資産)
借方科目金額貸方科目金額
前払金500,000普通預金500,000
仕訳(2) 納品時:前払金を充当し、残額は買掛金
借方科目金額貸方科目金額
仕入3,600,000前払金500,000
買掛金3,100,000

契約を結んだだけでは仕訳しない(第2章)。だが、手付金を払えば「お金が出ていった」という事実があるので、仕訳が必要になる。

夜行バスの乗車券は「前受金」

前受金を最もダイナミックに使うビジネスの1つが、ナイトオウル交通だ。乗車券は、乗車日の1か月前からWebで販売され、乗客は予約時に運賃を支払う。だが、その時点では、まだバスは走っていない。

運賃を受け取っても、輸送というサービスを提供するまでは売上にならない。受け取った運賃は、「乗客を目的地まで運ぶ義務」を表す前受金(負債)として記録する。

例題京都行き「OWL LINER 21号」の運賃

(1) 7月1日、8月10日出発の東京発京都行き21号の乗車券28席分(1席9,800円)が完売し、運賃274,400円が普通預金に入金された。

(2) 8月10日、21号が運行された。

(3) 仮に、台風の接近で21号が運休となり、全額を普通預金から払い戻した場合は?

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仕訳(1) 前受け:まだ運んでいないので負債
借方科目金額貸方科目金額
普通預金274,400前受金274,400
仕訳(2) 運行した日に、初めて売上になる
借方科目金額貸方科目金額
前受金274,400売上274,400
仕訳(3) 運休して払い戻した場合
借方科目金額貸方科目金額
前受金274,400普通預金274,400

THINK ― 判断してみよう

「前受金が8,000万円ある。これで新車を買おう」

夏の繁忙期、ナイトオウル交通の普通預金には、乗車券の前受金だけで常時8,000万円ほどが積み上がっている。社長が言った。「このお金、遊ばせておくのはもったいない。これを頭金にして、新車をあと2台買おう」。あなたなら、どう答えるか?

考え方の例を見る▼

まず事実の確認から入る。「その8,000万円は、乗客のお金です。帳簿の上では負債です」。

ただし、前受金を一切使うなという話でもない。毎日新しい予約が入り、毎日バスが運行して前受金が売上に変わっていく。このサイクルが続く限り、一定額の前受金は常に手元に滞留する。この「滞留する資金(フロート)」を事業に活用すること自体は、多くの企業がやっていることだ。

問題は、サイクルが止まったときだ。財務の立場からは、次のように線を引きたい。

  • ストレステスト:台風で3日間全便運休した場合、感染症で1か月運休した場合の払い戻し額を試算する。
  • 流動性のルール:前受金残高の一定割合(たとえば最悪のシナリオで必要な払い戻し額)は、常に預金として確保しておく。
  • 新車は前受金でなく、借入れやリースで調達する:バスは5年かけて稼ぐ資産だ。5年で返す借入れでまかなうのが筋で、いつ払い戻しが必要になるか分からない前受金を充てるべきではない。

「お金の性質」と「使い道の期間」を合わせる。これは財務の基本原則だ。

04仮払金と仮受金 ― 「とりあえず」記録しておく勘定

お金を支払った(受け取った)が、その内容や金額がまだ確定していないとき、いったん記録しておくための勘定がある。支払ったときは仮払金(資産)、受け取ったときは仮受金(負債)だ。内容が確定したら、正しい勘定科目に振り替える。

例題貸切バスの長距離ツアー

(1) 運転士2名が、貸切バスで立山黒部への2泊3日のツアーに出発するにあたり、宿泊費・高速代などの概算額として現金100,000円を渡した。

(2) 運転士が帰社し、旅費交通費として86,000円を使ったと報告を受け、残額は現金で受け取った。

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仕訳(1) 金額が未確定なので、仮払金で処理
借方科目金額貸方科目金額
仮払金100,000現金100,000
仕訳(2) 精算:確定した費用に振り替え、残額を回収
借方科目金額貸方科目金額
旅費交通費86,000仮払金100,000
現金14,000
仕訳ICカードに10,000円をチャージし、現金で支払った
借方科目金額貸方科目金額
仮払金10,000現金10,000
仕訳ICカードで電車代3,200円を支払ったと報告を受けた
借方科目金額貸方科目金額
旅費交通費3,200仮払金3,200

※問題文で「チャージ時に旅費交通費として処理する」などの指示がある場合は、それに従う。

例題誰から振り込まれたのか分からない入金

(1) 普通預金に、内容が不明な300,000円の入金があった。

(2) 調査の結果、(1)は得意先からの売掛金の回収200,000円と、来月納品予定の商品の内金100,000円であることが判明した。

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仕訳(1) 内容不明の入金は、仮受金(負債)で処理
借方科目金額貸方科目金額
普通預金300,000仮受金300,000
仕訳(2) 内容が判明したら、正しい勘定に振り替える
借方科目金額貸方科目金額
仮受金300,000売掛金200,000
前受金100,000

05差入保証金 ― 返ってくるはずのお金

店舗や事務所を借りるときには、家賃とは別に敷金や保証金を大家に預けることが多い。これは、家賃の滞納や退去時の原状回復に備えて預けておくお金で、退去時には(原状回復費などを差し引いて)返ってくる。

返ってくる権利があるので費用ではなく、差入保証金(資産)で処理する。

例題おかわり堂・北白川店の出店

おかわり堂は、北白川に新店舗を借りる契約を結んだ。保証金1,800,000円(家賃の6か月分)、1か月分の家賃300,000円、不動産会社への仲介手数料300,000円を、普通預金から支払った。

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仕訳保証金は資産、家賃と仲介手数料は費用
借方科目金額貸方科目金額
差入保証金1,800,000普通預金2,400,000
支払家賃300,000
支払手数料300,000
仕訳数年後に退去し、原状回復費用200,000円を差し引かれた保証金の残額1,600,000円が普通預金に返還された
借方科目金額貸方科目金額
修繕費200,000差入保証金1,800,000
普通預金1,600,000
本章で学んだ債権・債務のまとめ
場面資産(権利)負債(義務)
商品以外を後払いで売買した未収入金未払金
お金を貸し借りした貸付金(相手が役員なら役員貸付金、従業員なら従業員貸付金)借入金(相手が役員なら役員借入金)
手付金・内金をやり取りした前払金前受金
内容・金額が未確定の支払い・受取り仮払金仮受金
敷金・保証金を差し入れた差入保証金-

06確認問題

問1次の取引を仕訳しなさい。

(1) 営業用のトラック4,500,000円を購入し、代金は翌月末に支払うことにした。

(2) 商品を注文し、内金50,000円を現金で支払った。

(3) 得意先から商品の注文を受け、内金80,000円が普通預金に振り込まれた。

(4) 従業員の出張にあたり、旅費の概算額40,000円を現金で渡した。

(5) (4)の従業員が帰社し、旅費として43,500円を使ったとの報告を受け、不足額を現金で支払った。

(6) 事務所の賃借にあたり、敷金400,000円と1か月分の家賃200,000円を普通預金から支払った。

解答・解説を見る▼
仕訳(1) 商品ではないので未払金
借方科目金額貸方科目金額
車両運搬具4,500,000未払金4,500,000
仕訳(2)
借方科目金額貸方科目金額
前払金50,000現金50,000
仕訳(3)
借方科目金額貸方科目金額
普通預金80,000前受金80,000
仕訳(4)
借方科目金額貸方科目金額
仮払金40,000現金40,000
仕訳(5) 不足額3,500円を追加で支払う
借方科目金額貸方科目金額
旅費交通費43,500仮払金40,000
現金3,500
仕訳(6)
借方科目金額貸方科目金額
差入保証金400,000普通預金600,000
支払家賃200,000

問26月1日に、取引先に3,000,000円を年利率2.4%で貸し付けた。翌年1月31日に利息とともに返済を受け、普通預金に入金された。返済時の仕訳をしなさい。

解答・解説を見る▼
仕訳6月1日〜1月31日は8か月。利息=3,000,000×2.4%×8/12=48,000円
借方科目金額貸方科目金額
普通預金3,048,000貸付金3,000,000
受取利息48,000

問3次のうち、勘定科目の選び方として誤っているものを1つ選び、正しい勘定科目を答えなさい。

ア.商品を掛けで仕入れた → 買掛金 イ.パソコンを後払いで購入した → 買掛金 ウ.内容不明の入金があった → 仮受金 エ.店舗の保証金を支払った → 差入保証金

解答・解説を見る▼

イ。パソコンは商品ではないので、正しくは未払金(パソコン自体は備品)。

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓商品の後払い・後受けは売掛金・買掛金、商品以外は未収入金・未払金。勘定科目の誤りは、決算書の読み手を誤解させる
  • ✓貸付金・借入金の利息は「元金×年利率×月数÷12」で月割計算する
  • ✓手付金・内金は前払金(資産)・前受金(負債)。前受金は「まだ自分のお金ではない」負債である
  • ✓内容や金額が未確定な支払いは仮払金、受取りは仮受金。確定したら正しい勘定に振り替える。ICカードのチャージは仮払金
  • ✓敷金・保証金は差入保証金(資産)。費用にならないが、お金は出ていく