簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第4部 信用という名の時限爆弾

第11章貸倒れと貸倒引当金

ある朝、1,000万円の売掛金が紙くずになった。

得意先の倒産で、1,000万円の売掛金が回収不能になった。なのに、今期の損失は550万円しか計上されなかった。残りの450万円は、どこへ消えたのか。「まだ起きていない損失」を先回りして記録する、貸倒引当金の知恵を学ぶ。

読了目安 30分難易度 ★★★

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01貸倒れ ― 売った代金が、二度と戻らないとき
  2. 02貸倒引当金 ― 「まだ起きていない損失」を先に費用にする
  3. 03前期以前の債権が貸し倒れたら ― 引当金を取り崩す
  4. 04償却債権取立益 ― 諦めた代金が戻ってきたら
  5. 05確認問題

QUESTION ― この章の問い

消えた1,000万円と、計上されなかった450万円

5月20日の朝。洛北ミートの社長のスマートフォンに、1本のニュース速報が届いた。

「焼肉チェーン『牛将(ぎゅうしょう)』、破産手続き開始を申し立て」

京都と滋賀に12店舗を展開する、洛北ミートの大口得意先だった。洛北ミートが牛将に対して持っている売掛金は、ちょうど1,000万円。2月と3月に納めた肉の代金だ。破産となれば、ほぼ回収できない。

社長は頭を抱えた。「今期の利益から、1,000万円がまるごと吹き飛ぶ……」

だが、報告に来た経理部長の答えは意外なものだった。

「社長、今期の損益計算書に載る損失は、550万円です」

1,000万円の売掛金が紙くずになったのに、損失は550万円。残りの450万円は、いったいどこへ消えたのか?

01貸倒れ ― 売った代金が、二度と戻らないとき

得意先の倒産などによって、売掛金や受取手形などの債権が回収できなくなることを、貸倒れ(かしだおれ)という。

第7章で見たとおり、掛けで売ることは「得意先にお金を貸している」のと同じだ。貸したお金が返ってこなければ、それは会社にとっての損失になる。

当期に発生した債権が貸し倒れたら ― 貸倒損失

当期に販売して発生した売掛金が、当期中に貸し倒れた場合は、その金額を貸倒損失(費用)として処理する。

仕訳当期に掛けで販売した得意先が倒産し、売掛金300,000円が回収不能になった
借方科目金額貸方科目金額
貸倒損失300,000売掛金300,000

ここまでは素直な処理だ。問題は、前期に販売した代金が、当期になって貸し倒れた場合である。問いの鍵は、そこにある。

02貸倒引当金 ― 「まだ起きていない損失」を先に費用にする

なぜ、起きていない損失を記録するのか

洛北ミートの得意先は約150店。毎年、そのうちの何店かは、残念ながら倒産したり夜逃げしたりして、代金が回収できなくなる。過去の実績を調べると、期末の売掛金のおよそ2%が、翌期に貸し倒れていた。

つまり、期末に2億2,500万円の売掛金があれば、そのうち450万円くらいは、来期のどこかで回収できなくなる可能性が高い。どの得意先が倒れるかは分からない。だが、全体としては、それくらいの損失が出ることがほぼ確実に予想できる。

この予想される損失を、今期の費用として先に計上し、同時に「売掛金のうち回収できないと見込まれる額」を記録しておく。そのための勘定が貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)だ。

差額補充法 ― 不足分だけを補充する

3級では、貸倒引当金を差額補充法で設定する。決算日に、期末の売掛金などの残高に貸倒実績率をかけて、必要な貸倒引当金の額(設定額)を計算する。そして、すでにある貸倒引当金の残高との差額だけを補充する。

FORMULA ― 公式

差額補充法

設定額 = 期末の売上債権の残高 × 貸倒実績率

繰入額 = 設定額 - 貸倒引当金の期末残高(決算整理前)

例題洛北ミート・前期末の決算整理

前期末(3月31日)の売掛金の残高は225,000,000円。貸倒実績率2%で貸倒引当金を差額補充法により設定する。決算整理前の貸倒引当金の残高は1,200,000円だった。

解答・解説を見る▼

設定額 = 225,000,000 × 2% = 4,500,000円

繰入額 = 4,500,000 - 1,200,000 = 3,300,000円

仕訳不足分を補充する
借方科目金額貸方科目金額
貸倒引当金繰入3,300,000貸倒引当金3,300,000

貸倒引当金繰入は費用、貸倒引当金は売掛金のマイナスを表す勘定(貸方残高)だ。これで、貸倒引当金の残高は設定額の4,500,000円になった。

設定額より、すでにある残高のほうが大きいこともある。その場合は、多すぎる分を取り崩して、貸倒引当金戻入(収益)とする。

仕訳設定額が400,000円、決算整理前の貸倒引当金残高が550,000円の場合(150,000円を戻し入れる)
借方科目金額貸方科目金額
貸倒引当金150,000貸倒引当金戻入150,000

03前期以前の債権が貸し倒れたら ― 引当金を取り崩す

さて、5月20日の牛将の破産に戻ろう。牛将の売掛金1,000万円は、前期の2月と3月に販売した代金だ。そして前期末に、洛北ミートは貸倒引当金を450万円設定していた。

前期以前に発生した債権が貸し倒れたときは、まず貸倒引当金を取り崩して充てる。引当金で足りない分だけを、貸倒損失とする。

仕訳5月20日:前期に発生した牛将への売掛金10,000,000円が貸し倒れた(貸倒引当金の残高は4,500,000円)
借方科目金額貸方科目金額
貸倒引当金4,500,000売掛金10,000,000
貸倒損失5,500,000
貸倒引当金(前期)
借方貸方
前期繰越1,200,000
次期繰越4,500,0003/31 貸倒引当金繰入3,300,000
4,500,0004,500,000
貸倒引当金(当期)
借方貸方
5/20 売掛金4,500,0004/1 前期繰越4,500,000

ANSWER ― 答え合わせ

450万円は「去年」すでに費用になっていた

1,000万円の売掛金が紙くずになったのに、今期の損失が550万円だったのは、残りの450万円が、前期の決算ですでに費用として計上されていたからだ。

前期末、洛北ミートは「来期、売掛金の2%くらいは回収できなくなるだろう」と見込み、貸倒引当金を450万円まで積み増した。そのとき「貸倒引当金繰入」という費用が前期の損益計算書に計上され、前期の利益はその分だけ小さくなっていた。

今期、実際に貸倒れが起きたとき、その備えを取り崩して損失に充てた。だから今期の損益計算書に新たに載るのは、備えを超えた部分、つまり550万円の貸倒損失だけなのだ。

牛将への販売で生まれた売上は前期のもの。その売上が抱えていたリスクのコストも、可能な限り前期に負担させる。貸倒引当金は、損失を「起きた日」ではなく「原因が生まれた期」に記録するための、会計上の工夫である。

※当期に発生した債権が当期中に貸し倒れた場合は、貸倒引当金の残高があっても取り崩さず、全額を貸倒損失とする。貸倒引当金は「前期末の債権」に対する備えだからだ。

04償却債権取立益 ― 諦めた代金が戻ってきたら

半年後、牛将の破産手続きが進み、残っていた財産が債権者に分配された。洛北ミートにも、1,000万円の債権のうち3%、30万円が普通預金に振り込まれた。

前期以前に貸倒れとして処理した債権が、後になって回収できた場合は、償却債権取立益(しょうきゃくさいけんとりたてえき・収益)で処理する。

仕訳前期に貸倒れとして処理した売掛金のうち300,000円が、普通預金に入金された
借方科目金額貸方科目金額
普通預金300,000償却債権取立益300,000

THINK ― 判断してみよう

牛将の次は、どこが倒れるか

牛将の破産で、洛北ミートの経営陣は震え上がった。売掛金の残高上位10社の中には、ほかにも急拡大を続けるチェーン店がいくつかある。あなたなら、二度と同じ目に遭わないために、どんな手を打つか?

考え方の例を見る▼

貸倒引当金は、損失を「記録」する道具であって、損失を「防ぐ」道具ではない。本当にすべきは、貸倒れそのものを減らす与信管理だ。

  • 与信限度額の設定:得意先ごとに、売掛金の上限(与信枠)を決める。財務内容や支払実績をもとに、限度額を超える注文は前払いや短いサイトでしか受けない。
  • 早期警戒サインの監視:支払いの遅れ、支払サイトの延長の申し入れ、急な大量注文、経理担当者の頻繁な交代、取引銀行の変更。倒産する会社には、たいてい前兆がある。牛将も、倒れる3か月前から支払いが遅れがちだった。売掛金元帳を毎週チェックしていれば、気づけたはずだ。
  • 集中リスクの分散:1社への売上が大きすぎると、その1社の倒産が致命傷になる。上位得意先への依存度を下げる。
  • 保険と担保:取引信用保険への加入や、保証金の預かりも検討する。
  • 会計上の見直し:景気の悪化や業界の異変が見えたら、過去の実績率にとらわれず、貸倒実績率の見直しや、リスクの高い得意先への個別の引当て(2級以降で学ぶ)を検討する。

数字は過去の結果だが、与信管理は未来の損失を防ぐ。両方がそろって初めて、売掛金は「安全な資産」になる。

05確認問題

問1次の取引を仕訳しなさい。

(1) 当期に掛けで販売した得意先が倒産し、売掛金200,000円が回収不能となった。

(2) 前期に発生した売掛金300,000円が回収不能となった。貸倒引当金の残高は250,000円である。

(3) 前期に貸倒れとして処理した売掛金80,000円を、現金で回収した。

解答・解説を見る▼
仕訳(1) 当期発生 → 全額貸倒損失
借方科目金額貸方科目金額
貸倒損失200,000売掛金200,000
仕訳(2) 前期発生 → 引当金を取り崩し、不足分は貸倒損失
借方科目金額貸方科目金額
貸倒引当金250,000売掛金300,000
貸倒損失50,000
仕訳(3)
借方科目金額貸方科目金額
現金80,000償却債権取立益80,000

問2決算にあたり、売掛金1,600,000円と受取手形400,000円の期末残高に対して、2%の貸倒引当金を差額補充法により設定する。決算整理前の貸倒引当金の残高が(1)15,000円の場合と、(2)50,000円の場合の、それぞれの決算整理仕訳をしなさい。

解答・解説を見る▼

設定額=(1,600,000+400,000)×2%=40,000円

仕訳(1) 残高15,000円 → 25,000円を繰り入れる
借方科目金額貸方科目金額
貸倒引当金繰入25,000貸倒引当金25,000
仕訳(2) 残高50,000円 → 10,000円を戻し入れる
借方科目金額貸方科目金額
貸倒引当金10,000貸倒引当金戻入10,000

問3期首の貸倒引当金の残高は30,000円だった。期中に、前期発生の売掛金20,000円が貸し倒れた。期末の売掛金残高は1,500,000円で、貸倒実績率は2%である。(1)期中の貸倒れの仕訳と、(2)決算整理仕訳をしなさい。

解答・解説を見る▼
仕訳(1) 引当金30,000円の範囲内なので、全額を引当金で充当
借方科目金額貸方科目金額
貸倒引当金20,000売掛金20,000
仕訳(2) 設定額30,000円-整理前残高10,000円=20,000円を繰り入れる
借方科目金額貸方科目金額
貸倒引当金繰入20,000貸倒引当金20,000

期中の取崩しで、決算整理前の残高は30,000-20,000=10,000円に減っている。ここを見落とさないこと。

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓売掛金などが回収不能になることを貸倒れという。当期発生の債権の貸倒れは全額「貸倒損失」
  • ✓決算では、期末の債権に貸倒実績率をかけて貸倒引当金を設定する(差額補充法)。不足は「繰入」、超過は「戻入」
  • ✓前期以前に発生した債権の貸倒れは、まず貸倒引当金を取り崩し、不足分を貸倒損失とする
  • ✓前期以前に貸倒れ処理した債権を回収したら「償却債権取立益」
  • ✓貸倒引当金は、損失を「原因が生まれた期」に負担させるための評価勘定(費用収益対応・保守主義)
  • ✓引当金は見積りであり、操作の誘惑もある。正直な見積りと、日々の与信管理がセットで会社を守る