簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第7部 決算

第16章帳簿の体系・伝票・証ひょう・訂正仕訳

3年間見つからなかった横領は、なぜ「1枚の紙」で暴かれたのか?

帳簿は、記録するためだけにあるのではない。取引を複数の帳簿と書類で照らし合わせることで、誤りと不正をあぶり出す「網」でもある。補助簿の体系、伝票、証ひょう、そして誤りを正す訂正仕訳を学ぶ。

読了目安 40分難易度 ★★★

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01帳簿の体系 ― 主要簿と補助簿
  2. 02取引ごとに、どの補助簿に記入するか
  3. 03伝票 ― 仕訳を「1取引1枚」の紙に書く
  4. 04証ひょう ― 取引の「証拠」から仕訳を起こす
  5. 05訂正仕訳 ― 間違えた仕訳の直し方
  6. 06答え合わせ ― 3つの書類の「照合」が網になる
  7. 07確認問題

QUESTION ― この章の問い

実在しない八百屋に、3年間で2,100万円

おかわり堂の本部経理部に、勤続15年のベテランがいた。仕入代金の支払いを一手に任され、誰よりも数字に詳しく、誰からも信頼されていた。

新しい財務担当役員が着任して3か月後、そのベテランによる横領が発覚した。手口はこうだ。実在しない野菜の卸売業者「丹波青果」の名前で請求書を偽造し、仕入代金として、自分が管理する口座に振り込む。1回あたり数十万円。年商13億円、仕入だけで年4億円を超える会社の中では、誰も気づかない金額だった。

3年間で、被害額は2,100万円に達していた。

3年間、税理士の決算チェックでも見つからなかった不正。それが、新任の財務担当役員が導入した、ある「たった1枚の紙」の照合ルールによって、わずか3か月で暴かれた。その紙とは何だったのか?

01帳簿の体系 ― 主要簿と補助簿

これまでの章で、さまざまな帳簿が登場した。ここで全体を整理しておこう。

帳簿の体系
分類帳簿役割
主要簿仕訳帳すべての取引を日付順に仕訳する
主要簿総勘定元帳すべての取引を勘定科目ごとに集計する
補助記入帳現金出納帳・当座預金出納帳・小口現金出納帳現金・預金の入出金の明細を記録する
補助記入帳仕入帳・売上帳仕入・売上の取引の明細を記録する
補助記入帳受取手形記入帳・支払手形記入帳手形の明細を記録する
補助元帳売掛金元帳・買掛金元帳取引先ごとの売掛金・買掛金を記録する
補助元帳商品有高帳商品の種類ごとの受入・払出・残高を記録する
補助元帳固定資産台帳固定資産を1つずつ管理する

主要簿は、すべての取引を記録する「骨格」だ。補助簿は、特定の取引や勘定の明細を記録する「詳細」である。補助簿のうち、取引の明細を発生順に記録するものを補助記入帳、特定の勘定の内訳を項目別に記録するものを補助元帳という。

02取引ごとに、どの補助簿に記入するか

試験の第2問では、「この取引は、どの補助簿に記入されるか」を問う問題がよく出る。解き方のコツは、まず仕訳を書き、仕訳に登場した勘定科目ごとに対応する補助簿を探すことだ。

勘定科目と補助簿の対応
仕訳に登場する勘定科目記入する補助簿
現金現金出納帳
当座預金当座預金出納帳
小口現金小口現金出納帳
仕入仕入帳 + 商品有高帳
売上売上帳 + 商品有高帳
売掛金売掛金元帳
買掛金買掛金元帳
受取手形受取手形記入帳
支払手形支払手形記入帳
建物・備品・車両運搬具・土地固定資産台帳

例題補助簿の選択

次の取引が記入される補助簿をすべて答えなさい。

(1) 商品400,000円を仕入れ、代金のうち半額は約束手形を振り出し、残額は掛けとした。

(2) 商品250,000円を売り上げ、代金は得意先振出の小切手で受け取った。

(3) 掛けで仕入れた商品のうち、20,000円を品違いのため返品した。

(4) 業務用の冷蔵庫300,000円を購入し、代金は翌月末に支払うこととした。

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仕訳(1)
借方科目金額貸方科目金額
仕入400,000支払手形200,000
買掛金200,000

→ 仕入帳、商品有高帳、支払手形記入帳、買掛金元帳

仕訳(2)
借方科目金額貸方科目金額
現金250,000売上250,000

→ 現金出納帳、売上帳、商品有高帳

仕訳(3)
借方科目金額貸方科目金額
買掛金20,000仕入20,000

→ 仕入帳、商品有高帳、買掛金元帳(返品も、仕入帳と商品有高帳に記入する)

仕訳(4)
借方科目金額貸方科目金額
備品300,000未払金300,000

→ 固定資産台帳のみ(未払金には補助簿がない)

03伝票 ― 仕訳を「1取引1枚」の紙に書く

実務では、仕訳帳に直接仕訳を書く代わりに、取引ごとに伝票という紙片(またはシステムの入力画面)に仕訳を書くことが多い。伝票なら、1枚ずつ担当者が分担して作成し、上司が承認し、証拠書類と一緒に保管できる。

3級では、3種類の伝票を使う3伝票制を学ぶ。

3伝票制
伝票使う取引記入のしかた
入金伝票現金が増える取引借方は必ず「現金」なので、貸方の勘定科目と金額だけを書く
出金伝票現金が減る取引貸方は必ず「現金」なので、借方の勘定科目と金額だけを書く
振替伝票現金が動かない取引借方・貸方の両方を書く(ふつうの仕訳と同じ)
起票の例(おかわり堂・本部)
取引伝票記入する内容
学会の弁当代100,000円を現金で受け取った入金伝票売上 100,000
店舗の消耗品5,000円を現金で購入した出金伝票消耗品費 5,000
牛肉300,000円を掛けで仕入れた振替伝票仕入 300,000 / 買掛金 300,000

一部現金取引 ― 2つの起票方法

1つの取引の中に、現金の部分とそうでない部分が混ざっていることがある。たとえば「商品300,000円を売り上げ、100,000円は現金で受け取り、残額は掛けとした」。これを一部現金取引という。起票の方法は2つある。

例題一部現金取引の起票

商品300,000円を売り上げ、代金のうち100,000円は現金で受け取り、残額は掛けとした。2つの方法で起票しなさい。

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方法①:取引を分解して起票する

現金で受け取った部分と、掛けの部分に分けて、2枚の伝票を書く。

仕訳入金伝票(借方は現金)
借方科目金額貸方科目金額
現金100,000売上100,000
仕訳振替伝票
借方科目金額貸方科目金額
売掛金200,000売上200,000

方法②:いったん全額を掛け取引とみなして起票する

全額をいったん掛けで売り上げたと考え、その直後に掛け代金の一部を現金で回収したと考える。

仕訳振替伝票(全額を掛けとみなす)
借方科目金額貸方科目金額
売掛金300,000売上300,000
仕訳入金伝票(掛け代金の一部を回収)
借方科目金額貸方科目金額
現金100,000売掛金100,000

どちらの方法でも、2枚の伝票を合計すると「現金100,000・売掛金200,000/売上300,000」になる。試験では、すでに記入されている伝票(たとえば入金伝票の科目が「売上」か「売掛金」か)から、どちらの方法で起票したのかを判断させる問題が出る。

仕訳日計表 ― 1日分の伝票を集計する

伝票は1日に何十枚、何百枚と作られる。1枚ずつ総勘定元帳に転記していては手間がかかりすぎる。そこで、1日分の伝票を勘定科目ごとに集計した仕訳日計表を作り、その合計額を総勘定元帳にまとめて転記する。

例題仕訳日計表の作成

ある日の伝票は次の5枚だった。仕訳日計表を作成しなさい。

入金伝票:売上 120,000 / 入金伝票:売掛金 80,000 / 出金伝票:仕入 50,000 / 出金伝票:旅費交通費 3,000 / 振替伝票:仕入 200,000 / 買掛金 200,000

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仕訳日計表
借方勘定科目貸方
200,000現金53,000
売掛金80,000
買掛金200,000
売上120,000
250,000仕入
3,000旅費交通費
453,000合計453,000
  • 現金の借方は、入金伝票の合計(120,000+80,000)。貸方は、出金伝票の合計(50,000+3,000)。
  • 仕入の借方は、出金伝票50,000円と振替伝票200,000円の合計。
  • 借方合計と貸方合計は必ず一致する(貸借平均の原理)。

04証ひょう ― 取引の「証拠」から仕訳を起こす

証ひょう(しょうひょう)とは、取引の事実を証明する書類のことだ。納品書、請求書、領収書、振込依頼書、銀行の通帳や当座勘定照合表などがある。経理担当者は、証ひょうにもとづいて仕訳を起こす。証ひょうのない仕訳は、原則として認められない。

主な証ひょう
証ひょう内容仕訳のヒント
納品書商品やサービスを納めたことを示す仕入・売上の数量と金額
請求書代金の支払いを求める掛けの金額、消費税、支払期日
領収書代金を受け取ったことを示す現金などで支払った費用
振込依頼書銀行での振込を依頼する支払いと振込手数料
通帳・当座勘定照合表口座の入出金の記録入金・引落しの内容

例題請求書から仕訳を起こす

おかわり堂は、厨房機器メーカーから業務用冷凍庫を購入し、次の請求書を受け取った。代金は翌月末に支払う。消費税は税抜方式で処理する。

請求書(株式会社おかわり堂 御中)
品名数量単価金額
業務用冷凍庫 FZ-9001600,000600,000
配送・設置費120,00020,000
小計620,000
消費税(10%)62,000
合計682,000
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仕訳配送・設置費は取得原価に含める。後払いなので未払金
借方科目金額貸方科目金額
備品620,000未払金682,000
仮払消費税62,000

冷凍庫は商品ではなく備品なので、買掛金ではなく未払金(第9章)。配送・設置費は付随費用として備品の取得原価に含める(第12章)。消費税は仮払消費税(第14章)。1枚の請求書に、これまでの章の知識が詰まっている。

例題通帳の記録から仕訳を起こす

洛北ミートの普通預金の通帳に、次の記録があった。

普通預金 入出金明細
日付摘要お支払金額お預り金額
10/31振込 ヤキニクホムラ720,000
10/31振込 チクサンカイシャB600,000
10/31振込手数料660

焼肉店「炎」は得意先(売掛金)、畜産会社Bは仕入先(買掛金)である。

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仕訳得意先からの入金は売掛金の回収
借方科目金額貸方科目金額
普通預金720,000売掛金720,000
仕訳仕入先への振込と、振込手数料
借方科目金額貸方科目金額
買掛金600,000普通預金600,660
支払手数料660

05訂正仕訳 ― 間違えた仕訳の直し方

帳簿に誤った仕訳を記録してしまったことが分かったら、誤った記録を消しゴムで消したり、上書きしたりしてはいけない。誤りを正すための新たな仕訳、訂正仕訳を記録する。

訂正仕訳の3ステップ

  1. 1

    誤った仕訳の「逆仕訳」を書く

    誤った記録を取り消す

  2. 2

    正しい仕訳を書く

    本来あるべき記録を加える

  3. 3

    2つを合算して、相殺できる部分を消す

    同じ勘定科目が借方と貸方にあれば相殺し、最小限の仕訳にまとめる

例題訂正仕訳

次の誤りを訂正する仕訳をしなさい。

(1) 店舗用の冷蔵庫(備品)150,000円を掛けで購入した際に、「仕入/買掛金」と処理していた。

(2) 得意先から売掛金98,000円が普通預金に振り込まれた際に、金額を89,000円と記録していた。

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(1)

仕訳① 誤った仕訳の逆仕訳
借方科目金額貸方科目金額
買掛金150,000仕入150,000
仕訳② 正しい仕訳
借方科目金額貸方科目金額
備品150,000未払金150,000
仕訳③ 訂正仕訳(①と②を合わせたもの。相殺できる科目はない)
借方科目金額貸方科目金額
備品150,000仕入150,000
買掛金150,000未払金150,000

(2) 正しい金額98,000円と、記録した89,000円の差額9,000円だけを追加すればよい。

仕訳訂正仕訳(不足していた9,000円を追加)
借方科目金額貸方科目金額
普通預金9,000売掛金9,000

06答え合わせ ― 3つの書類の「照合」が網になる

ANSWER ― 答え合わせ

請求書はあった。だが「納品書」と「受入の記録」がなかった

新任の財務担当役員が導入したルールは、シンプルなものだった。

「仕入代金を支払う前に、発注書・納品書・請求書の3つと、店舗の商品の受入記録を突き合わせ、すべて一致したものだけを支払う」

ベテランが偽造したのは、請求書だけだった。架空の「丹波青果」は実在しないので、店舗には野菜が1箱も届いていない。当然、店舗が作成する納品書の控えもなければ、商品の受入記録もない。

導入から3か月後、照合を担当した新人が気づいた。「丹波青果さんの請求書だけ、どの店舗にも納品書がありません」。

3年間、不正が見つからなかったのは、請求書の作成から支払いまでを、1人で完結できる仕組みだったからだ。帳簿の数字の合計はいつも合っていた。架空の仕入れは、「仕入/普通預金」という形式的には完璧な仕訳として記録されていたからだ。

不正を暴いたのは、帳簿の数字ではない。異なる部署が作る複数の証ひょうを照らし合わせる仕組みだった。複式簿記が「2つの側面」で記録の誤りを見つけるように、証ひょうの照合は「複数の書類」で取引の嘘を見つける。

THINK ― 判断してみよう

支払いの不正を防ぐ仕組みを設計せよ

横領事件を受けて、社長から「二度と同じことが起きない仕組みを作ってほしい」と依頼された。ただし、経理部の人数は増やせない。あなたなら、どんな仕組みを設計するか?

考え方の例を見る▼

ポイントは、「人を増やす」のではなく「1人で完結できない流れを作る」ことだ。

  • 3点照合の徹底:発注書・納品書(受入記録)・請求書が一致しない支払いは、システム上で実行できないようにする。
  • 取引先マスタの管理:新しい取引先の登録や振込口座の変更は、支払担当者ではなく、別の担当者の承認を必須にする。架空の取引先の登録を入口で止める。
  • 支払いの二重承認:振込データを作る人と、銀行で承認する人を分ける。一定額以上の支払いは、財務担当役員の承認を必須にする。
  • 月次の分析:取引先ごと・店舗ごとの仕入額の推移を毎月チェックし、売上に比べて不自然に増えている取引先や、実態のよく分からない取引先を洗い出す。
  • 担当替えと休暇:支払担当を定期的にローテーションし、年に1回は連続休暇を取らせる。

内部統制の目的は、社員を疑うことではない。誠実な社員が、疑われずに済む仕組みを作ることである。

07確認問題

問1次の取引が記入される補助簿をすべて答えなさい。

(1) 得意先に商品180,000円を売り上げ、代金は掛けとした。

(2) 買掛金250,000円を支払うため、小切手を振り出した。

(3) 売掛金300,000円を、得意先振出の約束手形で回収した。

解答・解説を見る▼

(1) 売上帳、商品有高帳、売掛金元帳

(2) 当座預金出納帳、買掛金元帳

(3) 受取手形記入帳、売掛金元帳

問2商品500,000円を仕入れ、代金のうち200,000円は現金で支払い、残額は掛けとした。この取引を、(1)取引を分解する方法と、(2)全額を掛け取引とみなす方法で起票しなさい(伝票の種類と記入内容を答える)。

解答・解説を見る▼

(1) 分解する方法

出金伝票:仕入 200,000

振替伝票:仕入 300,000 / 買掛金 300,000

(2) 全額を掛けとみなす方法

振替伝票:仕入 500,000 / 買掛金 500,000

出金伝票:買掛金 200,000

問3次の誤りを訂正する仕訳をしなさい。

(1) 事務用のパソコン(備品)50,000円を現金で購入した際に、「消耗品費」で処理していた。

(2) 売掛金の回収として得意先振出の小切手75,000円を受け取った際に、「当座預金/売掛金」と処理していた(受け取った小切手はまだ預け入れていない)。

解答・解説を見る▼
仕訳(1) 逆仕訳「現金/消耗品費」と正しい仕訳「備品/現金」を合算し、現金を相殺
借方科目金額貸方科目金額
備品50,000消耗品費50,000
仕訳(2) 逆仕訳「売掛金/当座預金」と正しい仕訳「現金/売掛金」を合算し、売掛金を相殺
借方科目金額貸方科目金額
現金75,000当座預金75,000

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓帳簿は主要簿(仕訳帳・総勘定元帳)と補助簿(補助記入帳・補助元帳)からなる
  • ✓補助簿の選択は「仕訳を書き、勘定科目ごとに対応する帳簿を探す」
  • ✓3伝票制:入金伝票(借方は現金)、出金伝票(貸方は現金)、振替伝票(現金なし)。一部現金取引は2つの起票方法がある
  • ✓仕訳日計表で1日分の伝票を集計し、合計を総勘定元帳に転記する
  • ✓証ひょう(請求書・領収書・通帳など)にもとづいて仕訳を起こす。証ひょうの照合は不正を防ぐ網になる
  • ✓訂正仕訳は「逆仕訳+正しい仕訳」を合算して相殺する