簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第1部 簿記というOS

第2章取引・仕訳・勘定・転記

1億円の契約は記録しないのに、30万円の盗難は記録する。なぜ?

簿記には、世間とは違う「取引」の定義がある。そして、すべての取引を左右2つの側面から記録する「仕訳」こそ、500年以上も世界中で使われ続けてきた記録の仕組みだ。

読了目安 30分難易度 ★★☆

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01簿記上の「取引」は、世間の取引と違う
  2. 021つの取引には、必ず「2つの側面」がある
  3. 03借方と貸方 ― 左と右には「意味がない」
  4. 04仕訳のルール ― ホームポジションで「増」、反対側で「減」
  5. 05取引の8要素と結合関係
  6. 06ナイトオウル交通、第2期の最初の1か月を仕訳する
  7. 07転記 ― 仕訳を「勘定」ごとに集計し直す
  8. 08主要簿 ― 仕訳帳と総勘定元帳
  9. 09確認問題

QUESTION ― この章の問い

経理部長は、なぜ社長の命令を拒んだのか

ナイトオウル交通の第2期が始まったばかりの4月。その週、会社では3つの出来事があった。

1つ目。大手旅行会社と、年間1億円分の団体客を送り込んでもらう契約を結んだ。

2つ目。バスメーカーに、3台目となる新車(5,000万円)を発注した。

3つ目。深夜の営業所に空き巣が入り、金庫の現金30万円が盗まれた。

週末、帳簿を確認した社長は激怒した。「1億円の契約も、5,000万円の発注も載っていないじゃないか!載っているのは泥棒の30万円だけだ。すぐに書き直せ!」

経理部長は静かに首を振った。「社長、書き直しません。この帳簿は正しいのです」

1億円の契約は記録せず、30万円の盗難だけを記録する。それが「正しい」とは、どういうことか?

01簿記上の「取引」は、世間の取引と違う

問いを解く鍵は、簿記上の取引という言葉にある。

簿記でいう取引とは、「資産・負債・純資産・収益・費用のいずれかを増減させる出来事」のことだ。そして、その増減を金額で測定できるものに限られる。

この定義に照らすと、世間の感覚とのズレが見えてくる。

「取引」の判定 ― 世間と簿記のズレ
出来事世間の感覚簿記上の取引理由
年1億円の送客契約を結んだ取引✗契約しただけでは、お金も財産も動いていない
バスを発注した取引✗注文しただけでは、まだ何も受け取っていない
店舗の賃貸借契約を結んだ取引✗契約だけでは財産は増減しない(保証金を払えば取引)
従業員を採用した取引ではない✗雇用契約だけでは財産は増減しない
現金が盗まれた取引ではない○現金(資産)が減少した
車庫が火事で焼けた取引ではない○建物や設備(資産)が減少した
バスが古くなり価値が減った取引ではない○資産の価値の減少を費用にする(減価償却)

ANSWER ― 答え合わせ

経理部長が正しかった理由

1億円の契約を結んでも、その時点では、会社の財産は1円も動いていない。旅行会社がお客を送り込み、バスが走り、運賃を受け取って初めて、「売上(収益)」と「現金や預金(資産)」が増える。

5,000万円の発注も同じだ。バスが納車されて初めて「車両運搬具(資産)」が増え、代金を払えば「預金(資産)」が減る。

一方、30万円の盗難は、誰にも取引の意思はないが、現金という資産が確実に30万円減った。だから記録しなければならない。記録しなければ、帳簿の現金と金庫の現金が一致しなくなる。

簿記が記録するのは「約束」ではなく「財産の増減という事実」なのである。

仕訳盗難の記録(現金という資産が減り、損失という費用が発生した)
借方科目金額貸方科目金額
雑損300,000現金300,000

※盗難による損失は「雑損」のほか「盗難損失」などの勘定科目で処理することもある。試験では問題文の指示に従う。

THINK ― 判断してみよう

帳簿に載らない「1億円の契約」の価値を、どう伝えるか

会計上、1億円の契約は帳簿に載らない。しかし、この契約は会社にとって大きな価値がある。来月、追加融資の相談で銀行を訪れる。あなたなら、この契約の価値を銀行にどう伝えるだろうか?

考え方の例を見る▼

財務諸表は「過去に起きた財産の増減」の記録であって、未来の約束は映さない。これは会計の限界であり、同時に信頼性の源泉でもある。「契約しただけ」で売上を計上できるなら、いくらでも数字を作れてしまうからだ。

だから財務の担当者は、財務諸表とは別の資料で未来を語る。

  • 契約書の写しと、契約に基づく受注残高(これから売上になる予定の金額)
  • 契約を踏まえた事業計画と資金繰り表(月ごとの入金・出金の予定)
  • 過去の財務諸表で示した「計画どおりに実行してきた実績」

上場企業も同じだ。決算説明会では、財務諸表に加えて受注残高や契約件数を示し、投資家に将来の売上を説明する。財務諸表という「事実」を土台に、未来という「意見」を語る。それが財務を担う人の仕事である。

021つの取引には、必ず「2つの側面」がある

簿記上の取引が起きたら、それを記録する。ここで簿記は、とても巧妙な方法をとる。1つの取引を、必ず2つの側面から記録するのだ。

たとえば、軽油を18万円分、現金で買ったとしよう。この取引には2つの側面がある。

このように、すべての取引を「原因」と「結果」のように2つの側面に分けて記録する方法を、複式簿記という。お小遣い帳のように「現金が18万円減った」とだけ書くのは単式簿記だ。

03借方と貸方 ― 左と右には「意味がない」

複式簿記では、取引の2つの側面を、左側と右側に分けて記録する。この左側を借方(かりかた)、右側を貸方(かしかた)と呼ぶ。

勘定科目
借方貸方
借方(かりかた)=左貸方(かしかた)=右

「借」「貸」という漢字に引きずられてはいけない。これは歴史的な名残にすぎず、現代の簿記では単に「左」「右」という意味しかない。お金を借りたかどうかとは関係ない。

04仕訳のルール ― ホームポジションで「増」、反対側で「減」

取引を借方と貸方に分けて記録することを仕訳(しわけ)という。仕訳には、たった1つのルールしかない。第1章で学んだホームポジションを思い出してほしい。

仕訳のルール一覧
要素増加・発生したら減少・取消したら
資産借方(左)貸方(右)
負債貸方(右)借方(左)
純資産貸方(右)借方(左)
収益貸方(右)借方(左)
費用借方(左)貸方(右)
資産の勘定
借方貸方
増加 +減少 -
負債の勘定
借方貸方
減少 -増加 +
純資産の勘定
借方貸方
減少 -増加 +
費用の勘定
借方貸方
発生 +取消 -
収益の勘定
借方貸方
取消 -発生 +

さっきの軽油の取引に当てはめてみよう。費用(燃料費)が発生 → 費用のホームポジションは左 → 借方。資産(現金)が減少 → 資産のホームポジションの反対側 → 貸方。

仕訳軽油18万円を現金で購入した
借方科目金額貸方科目金額
燃料費180,000現金180,000

仕訳を書くときは、次の4ステップで考えると迷わない。

仕訳の4ステップ

  1. 1

    何が起きたか?

    取引の事実をつかむ。「軽油を買って、現金を払った」

  2. 2

    どの勘定科目か?

    登場する勘定科目を特定する。「燃料費」と「現金」

  3. 3

    増えたか、減ったか?

    各勘定科目が5要素のどれで、増えたのか減ったのかを判断する。「費用の発生」「資産の減少」

  4. 4

    左か、右か?

    ルールに従って借方・貸方に振り分け、金額を書く。左右の合計が一致すれば完成

05取引の8要素と結合関係

仕訳の借方に来るのは「資産の増加」「負債の減少」「純資産の減少」「費用の発生」の4つ。貸方に来るのは「資産の減少」「負債の増加」「純資産の増加」「収益の発生」の4つだ。合わせて8つ。これを取引の8要素という。

すべての取引は、借方の要素と貸方の要素の組み合わせでできている。

取引の8要素(借方の要素 × 貸方の要素)
借方(左)の要素貸方(右)の要素
資産の増加資産の減少
負債の減少負債の増加
純資産の減少純資産の増加
費用の発生収益の発生
結合関係の例(ナイトオウル交通)
取引借方の要素貸方の要素
株式を発行し、出資金が普通預金に入金された資産の増加純資産の増加
銀行からお金を借り、普通預金に入金した資産の増加負債の増加
普通預金から現金を引き出した資産の増加資産の減少
貸切バスを運行し、代金を現金で受け取った資産の増加収益の発生
借入金を普通預金から返済した負債の減少資産の減少
運転士の給料を普通預金から支払った費用の発生資産の減少
部品を購入し、代金は月末に支払うことにした費用の発生負債の増加

※収益の発生と費用の発生が直接結びつく取引は、通常は起こらない。また、純資産の減少は、株主への配当(第13章)などの限られた場面で登場する。

06ナイトオウル交通、第2期の最初の1か月を仕訳する

では実際に、ナイトオウル交通の第2期(×2年4月)の取引を仕訳してみよう。前期末の時点で、普通預金は4,000万円、借入金は7,000万円ある。借入金は1年間の返済猶予(据置期間)が終わり、この月から毎月100万円ずつ返済が始まる。

例題次の取引を仕訳しなさい

4月1日 普通預金から現金300,000円を引き出した。

4月2日 大学の体育会の合宿送迎のため貸切バスを運行し、代金450,000円を現金で受け取った。

4月3日 軽油180,000円を現金で購入した。

4月10日 借入金の元金1,000,000円と、利息175,000円を普通預金から支払った。

4月20日 運転士の給料2,400,000円を普通預金から支払った。

4月25日 車庫の空きスペースを近隣の会社に駐車場として貸し、4月分の地代80,000円が普通預金に振り込まれた。

4月28日 バスの消耗部品120,000円を購入し、代金は月末に支払うことにした。

解答・解説を見る▼
仕訳4月1日 資産(現金)の増加・資産(普通預金)の減少
借方科目金額貸方科目金額
現金300,000普通預金300,000
仕訳4月2日 資産(現金)の増加・収益(売上)の発生
借方科目金額貸方科目金額
現金450,000売上450,000
仕訳4月3日 費用(燃料費)の発生・資産(現金)の減少
借方科目金額貸方科目金額
燃料費180,000現金180,000
仕訳4月10日 負債(借入金)の減少+費用(支払利息)の発生・資産(普通預金)の減少
借方科目金額貸方科目金額
借入金1,000,000普通預金1,175,000
支払利息175,000
仕訳4月20日 費用(給料)の発生・資産(普通預金)の減少
借方科目金額貸方科目金額
給料2,400,000普通預金2,400,000
仕訳4月25日 資産(普通預金)の増加・収益(受取地代)の発生
借方科目金額貸方科目金額
普通預金80,000受取地代80,000
仕訳4月28日 費用(消耗品費)の発生・負債(未払金)の増加
借方科目金額貸方科目金額
消耗品費120,000未払金120,000

4月10日のように、借方または貸方に複数の勘定科目が並ぶ仕訳を複合仕訳という。複合仕訳でも、借方の合計(1,000,000+175,000)と貸方の合計(1,175,000)は必ず一致する。

利息は、元金7,000万円×年利3%×1/12か月=175,000円。4月28日の「あとで支払う約束」は未払金という負債になる(第9章)。

07転記 ― 仕訳を「勘定」ごとに集計し直す

仕訳は、取引を時系列で記録したものだ。だが、仕訳を眺めているだけでは「いま現金がいくらあるのか」は分からない。そこで、仕訳を勘定科目ごとに集計し直す。この作業を転記(てんき)という。

勘定科目ごとの記録の場所を勘定(かんじょう)といい、学習ではアルファベットのTの形をしたT字勘定を使う。

転記のルール

  1. 1

    仕訳の借方の金額は、その勘定の借方(左)に書く

    4月1日の仕訳の借方「現金 300,000」は、現金勘定の左に書く

  2. 2

    仕訳の貸方の金額は、その勘定の貸方(右)に書く

    4月1日の仕訳の貸方「普通預金 300,000」は、普通預金勘定の右に書く

  3. 3

    日付と「相手の勘定科目」を添える

    現金勘定の左には「4/1 普通預金 300,000」と、仕訳の反対側の勘定科目を書く

  4. 4

    相手の勘定科目が2つ以上なら「諸口」と書く

    4月10日の普通預金の相手は借入金と支払利息の2つなので、「4/10 諸口 1,175,000」とする

先ほどの仕訳を、現金勘定と普通預金勘定に転記すると次のようになる。

現金
借方貸方
4/1 普通預金300,0004/3 燃料費180,000
4/2 売上450,000
普通預金
借方貸方
4/1 前期繰越40,000,0004/1 現金300,000
4/25 受取地代80,0004/10 諸口1,175,000
4/20 給料2,400,000

現金勘定の借方合計は750,000円、貸方合計は180,000円。差し引き570,000円が、4月末の手許現金だ。普通預金は、借方合計40,080,000円-貸方合計3,875,000円=36,205,000円が残っている。このように、勘定の借方合計と貸方合計の差額を残高という。

資産の勘定は、ふつう借方が大きくなる(借方残高)。資産のホームポジションが左だからだ。同様に、負債・純資産・収益の勘定は貸方残高、費用の勘定は借方残高になる。

08主要簿 ― 仕訳帳と総勘定元帳

実務では、仕訳を仕訳帳(しわけちょう)という帳簿に記録し、それを総勘定元帳(そうかんじょうもとちょう)に転記する。この2つは、すべての取引を記録する最も重要な帳簿なので、主要簿と呼ばれる。

仕訳帳の記入例
日付摘要元丁借方貸方
4/10諸口 /(普通預金)21,175,000
(借入金)201,000,000
(支払利息)41175,000
借入金の返済と利息の支払い

表は横にスクロールできます →

※仕訳帳では、勘定科目を( )で囲んで書き、借方科目を左寄せ、貸方科目を右寄せで記入する。複数の科目がある側には「諸口」と書く。「元丁」欄には、転記先の総勘定元帳のページ番号(勘定口座の番号)を書き、転記済みであることを示す。最終行の小書き(こがき)は取引の内容の簡単な説明。

総勘定元帳は、勘定科目ごとのページを集めた帳簿だ。T字勘定は、総勘定元帳を簡略化した学習用の形である。実際の総勘定元帳には、日付・摘要(相手科目)・仕丁(仕訳帳のページ)・借方・貸方の欄を設けた標準式と、それに残高欄を加えた残高式がある。

総勘定元帳(残高式)の例 ― 現金勘定
日付摘要仕丁借方貸方借/貸残高
4/1普通預金1300,000借300,000
4/2売上1450,000借750,000
4/3燃料費1180,000借570,000

表は横にスクロールできます →

09確認問題

問1次の出来事のうち、簿記上の取引に当たるものに○、当たらないものに✗をつけなさい。

(1) 店舗の賃貸借契約を結んだ (2) 倉庫の商品が盗まれた (3) 従業員を1名採用する契約を結んだ (4) 借入金の利息を現金で支払った (5) 取引先に商品を注文した (6) 建物が火災で焼失した

解答・解説を見る▼

(1) ✗ (2) ○ (3) ✗ (4) ○ (5) ✗ (6) ○

(2)と(6)は、取引の意思はなくても資産が減少しているので簿記上の取引になる。(1)(3)(5)は契約・注文だけで、財産の増減がない。

問2次の取引を仕訳しなさい。

(1) 現金500,000円を普通預金に預け入れた。

(2) 事務用のパソコン200,000円を購入し、代金は現金で支払った(勘定科目は「備品」)。

(3) 銀行から1,000,000円を借り入れ、普通預金に入金された。

(4) 従業員の給料300,000円を現金で支払った。

(5) 取引の仲介を行い、手数料50,000円を現金で受け取った。

(6) 借入金200,000円を利息6,000円とともに普通預金から返済した。

解答・解説を見る▼
仕訳(1) 資産の増加・資産の減少
借方科目金額貸方科目金額
普通預金500,000現金500,000
仕訳(2) 資産の増加・資産の減少
借方科目金額貸方科目金額
備品200,000現金200,000
仕訳(3) 資産の増加・負債の増加
借方科目金額貸方科目金額
普通預金1,000,000借入金1,000,000
仕訳(4) 費用の発生・資産の減少
借方科目金額貸方科目金額
給料300,000現金300,000
仕訳(5) 資産の増加・収益の発生
借方科目金額貸方科目金額
現金50,000受取手数料50,000
仕訳(6) 負債の減少+費用の発生・資産の減少
借方科目金額貸方科目金額
借入金200,000普通預金206,000
支払利息6,000

問3次の仕訳を、現金勘定と売上勘定に転記しなさい。

5/1 現金 80,000 / 売上 80,000  5/9 現金 30,000 / 売上 30,000

解答・解説を見る▼
現金
借方貸方
5/1 売上80,000
5/9 売上30,000
売上
借方貸方
5/1 現金80,000
5/9 現金30,000

各勘定には、金額とともに日付と「相手の勘定科目」を書く。現金勘定の借方には相手科目の「売上」、売上勘定の貸方には相手科目の「現金」を記入する。

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓簿記上の取引とは、資産・負債・純資産・収益・費用を増減させる出来事。契約や注文だけでは取引にならないが、盗難や火災は取引になる
  • ✓複式簿記は、1つの取引を2つの側面から記録する。左を借方、右を貸方という(漢字の意味は気にしない)
  • ✓仕訳のルールは1つ:増えたらホームポジション側、減ったら反対側
  • ✓取引は、借方の4要素と貸方の4要素の組み合わせ(取引の8要素)でできている
  • ✓仕訳を勘定ごとに集計し直すことを転記という。相手科目が複数なら「諸口」
  • ✓主要簿は仕訳帳と総勘定元帳。すべての勘定の借方合計と貸方合計は一致する(貸借平均の原理)