第3部 利益のエンジン
同じ牛肉、同じ売上。なのに利益が2つある。どちらが真実か?
2人の経理担当者が同じ取引から別々の利益を計算し、どちらも正しかった。在庫の原価をどう決めるかという「仮定」が、利益の数字を動かす。商品有高帳と、仕入帳・売上帳という3つの補助簿を学ぶ。
GOALS
この章で学ぶこと
- ▸商品有高帳を先入先出法・移動平均法で記入できる
- ▸商品有高帳から売上原価・売上総利益を計算できる
- ▸物価が上がる局面で、払出単価の決め方が利益にどう影響するかを説明できる
- ▸仕入帳・売上帳の記入と、純仕入高・純売上高の計算ができる
この章の目次▼
QUESTION ― この章の問い
計算ミスはゼロ。なのに、粗利が2つある
洛北ミートの経理課。10月の月次決算で、主力商品「牛ばら肉」の粗利(売上総利益)を、2人の担当者が別々に計算した。
ベテランの島田が出した数字は400,000円。新人の谷口が出した数字は389,500円。
売上はどちらも同じ1,170,000円。仕入れた肉の量も、売った肉の量も、同じ伝票から拾っている。課長が2人の計算を1行ずつ検算したが、どちらにも計算ミスは見つからなかった。
同じ肉を、同じ量だけ、同じ値段で売ったのに、粗利が2つある。いったい、どちらが「真実」なのか?
01商品有高帳 ― 品目ごとの「在庫の家計簿」
問いを解く舞台は、商品有高帳(しょうひんありだかちょう)という帳簿だ。
第5章で学んだ三分法では、仕入勘定と売上勘定に「金額」は記録されるが、「どの商品が、何個、いくらで、いつ入って、いつ出ていったか」は分からない。そこで、商品の種類ごとに、受け入れ(仕入)・払い出し(販売)・残高を、数量・単価・金額で記録する補助簿を設ける。これが商品有高帳である。
ここで問題が起きる。牛肉の仕入値は、毎回違う。1kg 1,000円で買った肉と、1,200円で買った肉が、冷蔵庫の中で混ざっている。そこから400kgを出荷したとき、その原価は1kgいくらで計算すればよいのか?
この「払い出した商品の単価(払出単価)」の決め方として、3級では2つの方法を学ぶ。
0210月の牛ばら肉の動き
まず、洛北ミートの10月の牛ばら肉の動きを確認しよう。牛肉相場は上昇の一途で、仕入値は月の中でも上がり続けていた。
| 日付 | 取引 | 数量 | 単価 |
|---|---|---|---|
| 10/1 | 前月繰越(月初の在庫) | 200kg | 1,000円 |
| 10/8 | 畜産会社Aから仕入れ | 300kg | 1,200円 |
| 10/12 | 焼肉店に販売(売価1kgあたり1,800円) | 400kg | - |
| 10/20 | 畜産会社Bから仕入れ | 300kg | 1,400円 |
| 10/27 | おかわり堂に販売(売価1kgあたり1,800円) | 250kg | - |
03先入先出法 ― 先に仕入れたものから先に払い出す
先入先出法(さきいれさきだしほう)は、「先に仕入れた商品から、先に払い出した」と仮定して払出単価を決める方法だ。生鮮食品のように、古いものから使うのが自然な商品の流れとよく合う。
| 日付 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | ||
| 10/1 | 前月繰越 | 200 | 1,000 | 200,000 | 200 | 1,000 | 200,000 | |||
| 10/8 | 仕入 | 300 | 1,200 | 360,000 | 200 | 1,000 | 200,000 | |||
| 300 | 1,200 | 360,000 | ||||||||
| 10/12 | 売上 | 200 | 1,000 | 200,000 | ||||||
| 200 | 1,200 | 240,000 | 100 | 1,200 | 120,000 | |||||
| 10/20 | 仕入 | 300 | 1,400 | 420,000 | 100 | 1,200 | 120,000 | |||
| 300 | 1,400 | 420,000 | ||||||||
| 10/27 | 売上 | 100 | 1,200 | 120,000 | ||||||
| 150 | 1,400 | 210,000 | 150 | 1,400 | 210,000 | |||||
| 10/31 | 次月繰越 | 150 | 1,400 | 210,000 | ||||||
| 800 | 980,000 | 800 | 980,000 | |||||||
| 11/1 | 前月繰越 | 150 | 1,400 | 210,000 | 150 | 1,400 | 210,000 | |||
表は横にスクロールできます →
ポイントを順に見ていこう。
- 10/8:単価の違う在庫が2種類になった。先入先出法では、単価ごとに行を分けて残高を記入する(実際の帳簿では中かっこ「{」でくくる)。
- 10/12:400kgの払い出し。先に仕入れた1,000円の肉200kgを全部出し、足りない200kgを1,200円の肉から出す。払出欄も2行になる。原価は200,000+240,000=440,000円。
- 10/27:残っていた1,200円の肉100kgを先に出し、残り150kgを1,400円の肉から出す。原価は120,000+210,000=330,000円。
- 10/31:月末の在庫を「次月繰越」として払出欄に記入し、受入欄と払出欄の合計を一致させて締め切る。翌月は「前月繰越」から始める。
先入先出法による10月の売上原価は、440,000+330,000=770,000円。月末在庫は210,000円だ。
04移動平均法 ― 仕入れのたびに平均単価を計算し直す
移動平均法(いどうへいきんほう)は、仕入れるたびに、そのときの在庫と新たに仕入れた商品の平均単価を計算し直し、その単価で払い出す方法だ。
FORMULA ― 公式
移動平均法の平均単価
平均単価 = (残高の金額 + 受入の金額)÷(残高の数量 + 受入の数量)
| 日付 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | ||
| 10/1 | 前月繰越 | 200 | 1,000 | 200,000 | 200 | 1,000 | 200,000 | |||
| 10/8 | 仕入 | 300 | 1,200 | 360,000 | 500 | 1,120 | 560,000 | |||
| 10/12 | 売上 | 400 | 1,120 | 448,000 | 100 | 1,120 | 112,000 | |||
| 10/20 | 仕入 | 300 | 1,400 | 420,000 | 400 | 1,330 | 532,000 | |||
| 10/27 | 売上 | 250 | 1,330 | 332,500 | 150 | 1,330 | 199,500 | |||
| 10/31 | 次月繰越 | 150 | 1,330 | 199,500 | ||||||
| 800 | 980,000 | 800 | 980,000 | |||||||
| 11/1 | 前月繰越 | 150 | 1,330 | 199,500 | 150 | 1,330 | 199,500 | |||
表は横にスクロールできます →
- 10/8:(200,000+360,000)÷(200+300)= 1,120円。以後、次に仕入れるまでこの単価で払い出す。
- 10/20:残高112,000円・100kgに、420,000円・300kgが加わる。(112,000+420,000)÷(100+300)= 1,330円。
移動平均法による10月の売上原価は、448,000+332,500=780,500円。月末在庫は199,500円だ。
05答え合わせ ― 「真実」は1つではない
2つの方法の結果を並べてみよう。
| 項目 | 先入先出法(島田) | 移動平均法(谷口) |
|---|---|---|
| 売上高(650kg×1,800円) | 1,170,000 | 1,170,000 |
| 売上原価 | 770,000 | 780,500 |
| 売上総利益 | 400,000 | 389,500 |
| 月末在庫 | 210,000 | 199,500 |
| 合計(売上原価+月末在庫) | 980,000 | 980,000 |
ANSWER ― 答え合わせ
どちらも正しい。違うのは「仮定」だけだ
ベテランの島田は先入先出法で、新人の谷口は移動平均法で計算していた。洛北ミートが正式に採用しているのは先入先出法だが、谷口は研修で習った移動平均法で計算してしまったのだ。
表の最終行を見てほしい。どちらの方法でも、「売上原価+月末在庫」は980,000円で同じだ。これは、10月に「売ることができた肉の原価の総額」(月初在庫200,000円+仕入780,000円)にほかならない。払出単価の決め方とは、この980,000円を、「売れた分(売上原価)」と「残った分(在庫)」にどう切り分けるかのルールなのだ。
仕入値が上がり続けている局面では、先入先出法は「古くて安い肉から売れた」と仮定するので、売上原価が小さくなり、利益が大きく出る。移動平均法は新旧の単価をならすので、その中間になる。
どちらが「真実」か? 答えは、どちらも真実だ。会計の数字は、あらかじめ定めた仮定(会計方針)のもとで計算された結果である。だから大切なのは、どの方法を選ぶかよりも、選んだ方法を毎期継続して使うことだ。
THINK ― 判断してみよう
先入先出法の「40万円の利益」は、本物の儲けか?
牛肉の仕入値は、今や1kg 1,400円。今後も上がり続ける見通しだ。先入先出法による10月の粗利は400,000円。社長は「先入先出法のほうが利益が大きいなら、ずっとこのままでいい」と満足している。あなたなら、この40万円をどう評価するか?
考え方の例を見る▼
先入先出法の利益には、「値上がり前に安く仕入れていた」ことによる見かけ上の利益が含まれている。
10月に売った650kgを、もし月末の仕入値(1,400円)で仕入れ直すとしたら、コストは910,000円かかる。売上1,170,000円との差は260,000円。帳簿上の粗利400,000円との差額140,000円は、本業の「売る力」で稼いだというより、在庫を持っていた間に相場が上がったことで生まれた利益(保有利得)だ。
これを「本当の儲け」と勘違いして、配当や賞与で全部配ってしまうと危険だ。次に同じ量の肉を仕入れるには、以前より多くの現金が必要になる。しかも、帳簿上の利益が大きくなる分、税金も多く払うことになる。インフレ局面の先入先出法は、利益を大きく見せる一方で、現金を細らせやすいのだ。
財務の立場からは、帳簿上の粗利とあわせて「最新の仕入値で計算した場合の粗利」も経営会議に報告し、販売価格の引き上げが必要かどうかを判断する材料にしたい。
06商品有高帳から売上原価と粗利を求める
試験の第2問では、商品有高帳を作成させたうえで、売上原価や売上総利益を答えさせる問題がよく出る。手順は次のとおりだ。
商品有高帳の問題の解き方
- 1
払出単価の決め方を確認する
先入先出法か、移動平均法か。移動平均法の端数処理の指示も確認する
- 2
受入・払出・残高を1行ずつ記入する
払出欄は「原価」で書く。売価は使わない(売価は売上高の計算に使う)
- 3
売上原価を集計する
払出欄の合計から、次月繰越の金額を除く(=月初在庫+当月仕入-月末在庫)
- 4
売上高を計算する
販売数量×売価。売上帳や問題文の資料から求める
- 5
売上総利益を計算する
売上高-売上原価
07仕入帳と売上帳 ― 取引の「明細」を残す補助簿
商品有高帳が「品目ごとの在庫」を記録するのに対し、仕入帳と売上帳は、仕入と売上の取引そのものの明細(取引先、支払条件、品名、数量、単価)を日付順に記録する補助簿だ。
| 日付 | 摘要 | 内訳 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 10/8 | 畜産会社A 掛け | ||
| 牛ばら肉 300kg @1,200 | 360,000 | ||
| 10/20 | 畜産会社B 掛け | ||
| 牛ばら肉 300kg @1,400 | 420,000 | ||
| 豚ロース 200kg @900 | 180,000 | 600,000 | |
| 10/22 | 畜産会社B 掛け返品 | ||
| 豚ロース 10kg @900 | 9,000 | ||
| 10/31 | 総仕入高 | 960,000 | |
| 仕入戻し高 | 9,000 | ||
| 純仕入高 | 951,000 |
※1回の仕入れで複数の品目があるときは、品目ごとの金額を「内訳」欄に書き、合計を「金額」欄に書く。返品の行は、実際の帳簿では赤字で記入する。月末に、総仕入高から仕入戻し高を差し引いて純仕入高を求める。
| 日付 | 摘要 | 内訳 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 10/12 | 焼肉店X 掛け | ||
| 牛ばら肉 400kg @1,800 | 720,000 | ||
| 10/27 | おかわり堂 掛け | ||
| 牛ばら肉 250kg @1,800 | 450,000 | ||
| 10/31 | 総売上高 | 1,170,000 | |
| 純売上高 | 1,170,000 |
※売上帳では、総売上高から売上戻り高を差し引いて純売上高を求める(この月は売上戻りがないので総売上高と同じ)。仕入帳・売上帳は売価や仕入価格で、商品有高帳は原価で記録する。この違いを混同しないこと。
| 帳簿 | 記録する内容 | 単価・金額 |
|---|---|---|
| 仕入帳 | 仕入取引の明細(取引先・条件・品名・数量) | 仕入価格 |
| 売上帳 | 売上取引の明細(取引先・条件・品名・数量) | 売価 |
| 商品有高帳 | 品目ごとの受入・払出・残高 | 原価 |
08確認問題
問1次の資料にもとづき、(1)先入先出法と(2)移動平均法のそれぞれについて、11月の売上原価、月末在庫、売上総利益を求めなさい。
11/1 前月繰越 10個 @500円 11/5 仕入 20個 @530円 11/10 売上 25個(売価@800円) 11/20 仕入 15個 @560円 11/25 売上 12個(売価@800円)
解答・解説を見る▼
(1) 先入先出法
11/10の払出:10個×500円+15個×530円=12,950円(残:5個@530円)
11/25の払出:5個×530円+7個×560円=6,570円(残:8個@560円)
売上原価=12,950+6,570=19,520円、月末在庫=8個×560円=4,480円
(2) 移動平均法
11/5の平均単価:(5,000+10,600)÷30個=520円 → 11/10の払出:25個×520円=13,000円(残:5個・2,600円)
11/20の平均単価:(2,600+8,400)÷20個=550円 → 11/25の払出:12個×550円=6,600円(残:8個・4,400円)
売上原価=13,000+6,600=19,600円、月末在庫=4,400円
売上総利益
売上高=37個×800円=29,600円
先入先出法:29,600-19,520=10,080円、移動平均法:29,600-19,600=10,000円
検算:どちらも「売上原価+月末在庫」=24,000円(=5,000+10,600+8,400)で一致する。
問2仕入単価が継続的に上昇しているとき、先入先出法と移動平均法では、どちらの売上総利益が大きくなるか。理由とともに答えなさい。
解答・解説を見る▼
先入先出法のほうが大きくなる。先入先出法は、古くて安い単価の商品から払い出したと仮定するため、売上原価が小さく計算されるからだ。その分、期末の在庫は新しい(高い)単価で評価される。
問3次の資料から、純仕入高を求めなさい。
総仕入高 1,250,000円、仕入戻し高 34,000円、仕入れの際に当社が負担した引取運賃(総仕入高に含まれている)12,000円
解答・解説を見る▼
純仕入高=総仕入高-仕入戻し高=1,250,000-34,000=1,216,000円
引取運賃は仕入原価に含める付随費用なので、差し引かない。
SUMMARY
この章のまとめ
- ✓商品有高帳は、品目ごとの受入・払出・残高を、数量・単価・金額で記録する補助簿。すべて「原価」で記入する
- ✓先入先出法:先に仕入れたものから払い出すと仮定。単価の違う残高は行を分ける
- ✓移動平均法:仕入れのたびに平均単価を計算し直し、その単価で払い出す
- ✓方法が違っても「売上原価+期末在庫」の合計は同じ。違うのは、その切り分け方だけ
- ✓物価上昇局面では、先入先出法のほうが利益が大きく出る。ただし、その一部は相場上昇による見かけの利益
- ✓一度選んだ方法は継続して使う(継続性の原則)
- ✓仕入帳・売上帳は取引の明細を記録する補助簿。純仕入高=総仕入高-仕入戻し高、純売上高=総売上高-売上戻り高