簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第7部 決算

第17章試算表(合計試算表・残高試算表・合計残高試算表)

1,000件の仕訳に紛れた、たった1つのミスをどう見つけるか?

月末の試算表が、9,000円合わない。新人は徹夜で1,000件の仕訳を見直し、ベテランは5分で原因を突き止めた。貸借平均の原理を使った自己検証の道具、試算表の作り方と、プロのミスの探し方を学ぶ。

読了目安 30分難易度 ★★☆

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01試算表 ― 帳簿の「健康診断」
  2. 02試算表の3つの形
  3. 03試算表の作り方
  4. 04答え合わせ ― 差額は、ミスの「指紋」を残している
  5. 05試算表では見つからない誤り
  6. 06確認問題

QUESTION ― この章の問い

新人は徹夜し、ベテランは5分で見つけた

10月の月末。洛北ミートの経理部で、入社1年目の谷口が青ざめていた。

月次の残高試算表を作ったところ、借方の合計と貸方の合計が一致しない。差額は9,000円。貸方のほうが少ない。

この1か月の仕訳は約1,000件。谷口は、仕訳帳と総勘定元帳を1行ずつ突き合わせ始めた。夜10時を過ぎても、原因は見つからない。

翌朝、出社したベテランの島田は、谷口の差額のメモを一目見るなり言った。

「9,000円か。9で割り切れるね。数字の並びが逆になっているところを探してごらん。たぶん、売掛金の貸方だ」

5分後、島田の言葉どおりの場所から、ミスが見つかった。

なぜ島田は、差額を見ただけで、ミスの種類と場所まで言い当てられたのか?

01試算表 ― 帳簿の「健康診断」

試算表(しさんひょう)とは、総勘定元帳のすべての勘定の金額を1つの表に集めたものだ。英語では Trial Balance(T/B)と呼ぶ。

試算表には、2つの目的がある。

試算表の2つの目的
目的内容
①記録の検証貸借平均の原理により、借方合計と貸方合計は必ず一致する。一致しなければ、仕訳や転記のどこかに誤りがある
②全体像の把握すべての勘定の残高が1枚にまとまるので、月末や期末の時点の財産と損益の状況が一目で分かる。決算の出発点にもなる

第2章で学んだとおり、すべての仕訳は借方と貸方が同額で、それを転記するのだから、すべての勘定の借方の合計と貸方の合計は必ず一致する。試算表は、この性質を使って帳簿の正しさを確かめる、いわば帳簿の健康診断だ。

02試算表の3つの形

試算表には、何を集めるかによって3つの形がある。

試算表の種類
種類集める金額特徴
合計試算表各勘定の借方合計と貸方合計取引の総量が分かる。転記の検証に向く
残高試算表各勘定の残高(借方残高または貸方残高)財産と損益の状態が分かる。決算で使う
合計残高試算表合計と残高の両方両方の情報を1枚で示す

具体例で見てみよう。IRONWORKS 24の京都本店の4月末の総勘定元帳から、合計残高試算表を作ると次のようになる。

合計残高試算表(IRONWORKS 24 京都本店・4月30日)
借方残高借方合計勘定科目貸方合計貸方残高
430,0001,250,000現金820,000
1,500,0003,600,000普通預金2,100,000
440,0001,940,000クレジット売掛金1,500,000
6,000,0006,000,000備品
300,000未払金800,000500,000
200,000借入金4,000,0003,800,000
資本金3,000,0003,000,000
繰越利益剰余金820,000820,000
売上2,000,0002,000,000
900,000900,000給料
600,000600,000支払家賃
180,000180,000水道光熱費
60,00060,000支払手数料
10,00010,000支払利息
10,120,00015,040,000合計15,040,00010,120,000

表は横にスクロールできます →

※中央の2列(借方合計・貸方合計)だけを取り出したものが合計試算表、両端の2列(借方残高・貸方残高)だけを取り出したものが残高試算表だ。合計の列には、月初の残高(前月繰越)も含まれている。

借方残高 10,120,000円
貸方残高 10,120,000円
資産
8,370,000円
費用
1,750,000円
負債
4,300,000円
純資産
3,820,000円
収益
2,000,000円
残高試算表の構造(IRONWORKS 24 京都本店・4月30日)

03試算表の作り方

試算表を作成する手順

  1. 1

    総勘定元帳の各勘定の借方合計・貸方合計を計算する

    前月繰越(期首の残高)も忘れずに含める

  2. 2

    合計試算表に記入する

    各勘定の借方合計・貸方合計をそのまま写す

  3. 3

    残高を計算する

    借方合計と貸方合計の差額を、大きいほうの側に記入する

  4. 4

    縦に合計し、貸借の一致を確かめる

    合計試算表・残高試算表それぞれで、借方合計=貸方合計になっているか検算する

04答え合わせ ― 差額は、ミスの「指紋」を残している

ANSWER ― 答え合わせ

差額9,000円が「9で割り切れる」ことの意味

島田が使ったのは、試算表の差額からミスの種類を推理する、経理のプロの定石だ。

差額からミスを推理する3つの定石
差額の特徴疑われるミス例
差額そのものの金額の取引がある一方の側への転記漏れ借方に9,000円を転記し忘れた
差額の半分の金額の取引がある貸借を逆に転記した借方に転記すべき4,500円を貸方に転記した(差額は2倍の9,000円になる)
差額が9で割り切れる数字の並びの入れ替え・桁違い98,000円を89,000円と転記した、1,000円を10,000円と転記した

数字の並び(隣り合う桁)を入れ替えたり、桁を1つずらしたりした誤りでは、正しい金額と誤った金額の差が、必ず9の倍数になる。たとえば98,000と89,000の差は9,000、1,000と10,000の差も9,000だ。

差額が9,000円で、貸方のほうが少ない。だから島田は、「貸方に、本来より9,000円少なく転記された金額がある。おそらく数字の入れ替えだ」と推理した。そして、月末に大口の入金が集中する売掛金の貸方から探すよう指示したのだ。

実際、得意先から振り込まれた売掛金98,000円の仕訳は正しく記録されていたが、売掛金勘定の貸方に転記する際に、89,000円と数字の並びを逆にして書き写していた。

1,000件の仕訳を総当たりで調べる前に、差額という「指紋」から容疑者を絞り込む。これが、プロとアマチュアの差である。

05試算表では見つからない誤り

ただし、試算表は万能ではない。貸借の金額が同じように狂う誤りは、試算表の貸借が一致してしまうため、発見できない。

試算表で発見できない誤り
誤りの種類例発見できない理由
仕訳そのものの記録漏れ取引を1件まるごと記録し忘れた借方にも貸方にも記録がないので、貸借はそろう
仕訳の二重記録同じ取引を2回記録した借方も貸方も同額ずつ多くなる
勘定科目の誤り未払金とすべきところを買掛金で記録した金額は正しく、貸借はそろう
貸借逆の仕訳「現金/売上」を「売上/現金」と記録した借方・貸方の合計はそれぞれ同額のまま
貸借両方の同じ金額の誤り98,000円の取引を、仕訳の段階で89,000円と記録した借方も貸方も同じように少なくなる
誤りの相殺借方で1,000円多く、別の借方で1,000円少なく転記した誤りが打ち消し合う

THINK ― 判断してみよう

月次の試算表は、何日で出すべきか

おかわり堂では、これまで月次の試算表が完成するのは、翌月の25日ごろだった。第5章の牛肉の在庫の件で痛い目を見た社長は、こう言った。「月末から1か月近くたってから数字を見ても、手遅れだ」。あなたなら、月次の試算表をいつまでに、どうやって出す体制を作るか?

考え方の例を見る▼

目標は「翌月5営業日以内」だ。数字は鮮度が命である。牛肉の原価率の急上昇も、資金繰りの悪化も、早く気づけば打てる手が増える。

そのための主な施策は次のとおりだ。

  • 日次で記帳する:伝票や証ひょうを月末にまとめて処理するのをやめ、毎日入力する。POSレジや銀行の入出金データは、会計システムに自動で取り込む。
  • 締め日のルールを決める:店舗からの請求書・納品書の提出期限を「翌月2営業日」など明確に決める。
  • 見積りを許容する:月末に金額が確定しない費用(光熱費など)は、合理的な見積額で計上し、確定後に差額を調整する。月次の数字は、速さと正確さのバランスが大事だ。
  • 月次の決算整理を行う:主要食材の月末在庫を数え(月次棚卸し)、減価償却費や賞与などの月割額も毎月計上する。これで、月次の試算表が「本当の月次の損益」を表すようになる。
  • 差額の放置をしない:試算表の差額や現金過不足は、その月のうちに必ず原因を突き止める。

速く正確な月次決算は、経営の「計器盤」だ。計器盤の数字が1か月遅れていたら、どんな名パイロットでも墜落を避けられない。

06確認問題

問1次の総勘定元帳の借方合計・貸方合計をもとに、残高試算表を作成しなさい。

現金:借方600,000・貸方420,000/売掛金:借方800,000・貸方500,000/買掛金:借方300,000・貸方650,000/資本金:貸方300,000/売上:貸方600,000/仕入:借方570,000/給料:借方200,000

解答・解説を見る▼
残高試算表
借方残高勘定科目貸方残高
180,000現金
300,000売掛金
買掛金350,000
資本金300,000
売上600,000
570,000仕入
200,000給料
1,250,000合計1,250,000

各勘定の借方合計と貸方合計の差額を、大きいほうの側に記入する。最後に借方合計と貸方合計が1,250,000円で一致することを確かめる。

問2次の誤りのうち、試算表の作成によって発見できるものを1つ選びなさい。

ア.商品を掛けで売り上げた取引の仕訳を、まるごと記録し忘れた。

イ.買掛金の支払い50,000円を、買掛金勘定の借方に5,000円と転記した。

ウ.備品の購入代金の後払いを、未払金ではなく買掛金で仕訳した。

エ.同じ仕入取引を、2回仕訳して転記した。

解答・解説を見る▼

イ。借方だけが45,000円少なくなるので、試算表の貸借が一致しなくなる。差額45,000円は9で割り切れる(桁違いのミス)。ア・ウ・エは、貸借の金額がそろったままなので発見できない。

問3残高試算表の貸借差額が3,600円(貸方のほうが少ない)だった。考えられる原因を、差額の推理の定石を使って2つ挙げなさい。

解答・解説を見る▼

例:

  • 貸方に転記すべき3,600円の転記漏れ(差額そのもの)
  • 貸方に転記すべき1,800円を、借方に転記した(差額の半分)
  • 数字の入れ替え・桁違い(3,600は9で割り切れる)。たとえば、貸方に4,000円と転記すべきところを400円と転記した(差額3,600円)

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓試算表は、総勘定元帳の全勘定を1枚に集めた表。記録の検証と全体像の把握が目的
  • ✓合計試算表・残高試算表・合計残高試算表の3種類がある。残高は、資産・費用が借方、負債・純資産・収益が貸方(評価勘定は貸方)
  • ✓試算表等式:資産+費用=負債+純資産+収益
  • ✓貸借が一致しないときは、差額そのもの・差額の半分・9の倍数から、ミスの種類を推理する
  • ✓記録漏れ・二重記録・勘定科目の誤り・貸借逆の仕訳などは、試算表では発見できない
  • ✓差額は埋めるものではなく、突き止めるもの。月次の試算表は、速く正確に出すことで経営判断に役立つ