簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第6部 国家と時間

第15章経過勘定(前払費用・前受収益・未払費用・未収収益)と貯蔵品

年会費を先にもらったジムは、なぜそれを「売上」と呼べないのか?

お金が動いた日と、サービスを提供した日はずれる。そのずれを決算で修正し、「この期間に本当に稼いだ利益」を計算するための4つの勘定がある。期間のずれを調整する簿記の技術、経過勘定を学ぶ。

読了目安 40分難易度 ★★★

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01発生主義 ― 「お金が動いた日」ではなく「価値が生まれた日」
  2. 02前払費用 ― 払いすぎた費用を、来期に繰り延べる
  3. 03前受収益 ― 受け取りすぎた収益を、来期に繰り延べる
  4. 04未払費用 ― まだ払っていない費用を、当期に見越す
  5. 05未収収益 ― まだ受け取っていない収益を、当期に見越す
  6. 06再振替仕訳 ― 翌期首に「元に戻す」
  7. 07勘定記入 ― 第2問の定番を1年分たどる
  8. 08貯蔵品 ― 使い残した切手と収入印紙
  9. 09確認問題

QUESTION ― この章の問い

3月に集めた2億円のうち、今期の売上は2,000万円

3月、IRONWORKS 24は大勝負に出た。決算月に合わせた「年払いプラン、2か月分無料」キャンペーン。通常なら月7,980円×12か月の会費が、年払いなら10か月分の79,800円で1年間使い放題になる。

キャンペーンは大当たりした。3月だけで3,000人が年払いプランに申し込み、2億3,940万円が一気に口座に振り込まれた。

「これで今期は過去最高の売上だ!」

決算の打ち合わせで、社長は満面の笑みを浮かべた。だが、経理部長の答えは冷ややかだった。

「社長。この2億3,940万円のうち、今期の売上にできるのは1,995万円だけです」

お金は確かに、今期のうちに口座に入っている。それなのに、なぜ売上にできないのか?

01発生主義 ― 「お金が動いた日」ではなく「価値が生まれた日」

問いを解く鍵は、会計の根本原則の1つ、発生主義だ。

期中の仕訳は、ふつう、お金が動いたときに行う。だから決算日には、お金の動きと「その期に本当に発生した収益・費用」との間に、ずれが残っている。このずれを修正するために使う勘定を経過勘定という。経過勘定は、次の4つだ。

経過勘定の4つの勘定
分類勘定要素どんなときに使うか
繰延べ前払費用資産費用を支払ったが、まだサービスを受けていない部分がある
繰延べ前受収益負債収益を受け取ったが、まだサービスを提供していない部分がある
見越し未払費用負債サービスを受けたが、まだ費用を支払っていない
見越し未収収益資産サービスを提供したが、まだ収益を受け取っていない

02前払費用 ― 払いすぎた費用を、来期に繰り延べる

ナイトオウル交通は、バスの車両保険の保険料を、1年分まとめて前払いしている。

例題前払保険料(ナイトオウル交通)

12月1日、バスの車両保険料1年分(12月1日〜翌年11月30日)2,400,000円を普通預金から支払った。決算日は3月31日である。

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仕訳12月1日:支払時(ふつうに費用で処理する)
借方科目金額貸方科目金額
保険料2,400,000普通預金2,400,000

3月31日の時点で、保険のサービスを受けたのは12月〜3月の4か月分だけ。4月〜11月の8か月分は、来期のための支払いだ。その分を当期の費用から取り除き、前払保険料(資産)として来期に繰り延べる。

前払分 = 2,400,000 × 8/12 = 1,600,000円

仕訳3月31日:決算整理(前払分を資産に振り替える)
借方科目金額貸方科目金額
前払保険料1,600,000保険料1,600,000

これで、当期の保険料は800,000円(4か月分)になった。

支払った保険料(12か月分)
行き先
保険料
2,400,000円
(12/1〜11/30)
当期の費用
800,000円
(12月〜3月)
前払保険料(資産)
1,600,000円
(4月〜11月)
2,400,000円の保険料を、当期と来期に分ける

03前受収益 ― 受け取りすぎた収益を、来期に繰り延べる

IRONWORKS 24の京都本店には、入口の一角を、プロテインスムージーのスタンドに貸しているスペースがある。家賃は半年分の前払いだ。

例題前受家賃(IRONWORKS 24)

2月1日、スムージースタンドから、6か月分(2月1日〜7月31日)の家賃600,000円が普通預金に振り込まれた。決算日は3月31日である。

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仕訳2月1日:受取時(ふつうに収益で処理する)
借方科目金額貸方科目金額
普通預金600,000受取家賃600,000

3月31日の時点で、場所を貸したのは2月・3月の2か月分。4月〜7月の4か月分は、来期に場所を貸す義務が残っている。その分を当期の収益から取り除き、前受家賃(負債)として繰り延べる。

前受分 = 600,000 × 4/6 = 400,000円

仕訳3月31日:決算整理(前受分を負債に振り替える)
借方科目金額貸方科目金額
受取家賃400,000前受家賃400,000

ANSWER ― 答え合わせ

2億3,940万円のうち、11か月分は「これから提供するサービス」の代金

年払いプランの会費79,800円は、12か月分のジムの利用サービスの対価だ。3月に入会した会員に、3月31日までに提供したサービスは、3月の1か月分だけ。残りの11か月分は、来期にジムを使わせる義務が残っている。

発生主義では、収益は「お金を受け取ったとき」ではなく「サービスを提供したとき」に計上する。だから、今期の売上にできるのは、1か月分だけなのだ。

年払いプランの会費の行方
項目計算金額
3月に受け取った会費79,800円×3,000人239,400,000
うち今期の収益(3月の1か月分)239,400,000×1/1219,950,000
うち来期以降の収益(前受収益)239,400,000×11/12219,450,000
仕訳3月31日:決算整理(会費を「受取会費」で処理している場合)
借方科目金額貸方科目金額
受取会費219,450,000前受会費219,450,000

2億1,945万円は、帳簿の上では「お客様に1年間ジムを使わせる約束」という負債だ。もし来月ジムが閉鎖されれば、返金しなければならないお金である。社長が見ていた「過去最高の売上」は、来期の売上の前借りにすぎなかった。

※会費の勘定科目は会社が定める(ここでは「受取会費」)。3級の試験では、前受収益は主に受取家賃・受取地代・受取利息などで出題される。また、2級以降で学ぶ収益認識の基準では、こうした前受けの対価は「契約負債」として扱われる。

04未払費用 ― まだ払っていない費用を、当期に見越す

今度は逆のケースだ。おかわり堂の給料は、20日締め・25日払い。毎月21日から翌月20日までの労働に対する給料を、翌月25日に支払う。

例題未払給料(おかわり堂)

おかわり堂の給料は20日締め・25日払いである。決算日の3月31日時点で、3月21日〜31日の11日分の給料8,800,000円(深夜帯の割増分を含む)が、まだ支払われていない。

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3月21日〜31日の労働は、すでに当期に提供されている。給料を払うのは4月25日でも、費用はすでに当期に発生している。だから、当期の費用として見越し計上し、まだ払っていない義務を未払給料(負債)とする。

仕訳3月31日:決算整理(当期の費用として見越す)
借方科目金額貸方科目金額
給料8,800,000未払給料8,800,000

05未収収益 ― まだ受け取っていない収益を、当期に見越す

例題未収利息(洛北ミート)

洛北ミートは、10月1日に取引先に5,000,000円を年利率3%で貸し付けた。利息は1年分を翌年9月30日に後払いで受け取る約束である。決算日は3月31日。

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10月1日〜3月31日の6か月分の利息は、お金はまだ受け取っていないが、お金を貸すというサービスはすでに提供済みだ。当期の収益として見越し計上し、未収利息(資産)とする。

未収分 = 5,000,000 × 3% × 6/12 = 75,000円

仕訳3月31日:決算整理(当期の収益として見越す)
借方科目金額貸方科目金額
未収利息75,000受取利息75,000
4つの経過勘定の決算整理仕訳
種類決算整理仕訳当期の損益への影響
前払費用前払〇〇 / 〇〇(費用)費用を減らす
前受収益〇〇(収益) / 前受〇〇収益を減らす
未払費用〇〇(費用) / 未払〇〇費用を増やす
未収収益未収〇〇 / 〇〇(収益)収益を増やす

06再振替仕訳 ― 翌期首に「元に戻す」

経過勘定は、決算日の損益を正しく計算するための、一時的な修正だ。そこで、翌期の期首に、決算整理仕訳と逆の仕訳を行い、もとの費用・収益の勘定に戻す。これを再振替仕訳という。第4章の当座借越でも登場した手続きだ。

仕訳翌期4月1日:前払保険料の再振替仕訳
借方科目金額貸方科目金額
保険料1,600,000前払保険料1,600,000
仕訳翌期4月1日:未払給料の再振替仕訳
借方科目金額貸方科目金額
未払給料8,800,000給料8,800,000
保険料(翌期)
借方貸方
4/1 前払保険料1,600,000
12/1 普通預金2,400,000
前払保険料(翌期)
借方貸方
4/1 前期繰越1,600,0004/1 保険料1,600,000

※翌期の12月1日に、また1年分2,400,000円を支払えば、翌期の決算でも同じように8か月分を前払保険料に振り替える。翌期の保険料は、4月〜11月の8か月分(前期からの再振替分1,600,000円)と、12月〜3月の4か月分(800,000円)の合計2,400,000円となり、ちょうど12か月分になる。

07勘定記入 ― 第2問の定番を1年分たどる

試験の第2問では、経過勘定に関係する勘定に1年分の記入をさせ、締め切らせる問題がよく出る。期首の再振替、期中の支払い、決算整理、損益への振替、次期繰越が、1つの勘定に順番に並ぶ。

例題支払家賃勘定と前払家賃勘定の記入

ナイトオウル交通は、営業所の家賃を毎年8月1日に1年分(360,000円)前払いしている。前期末には、4月〜7月の4か月分120,000円を前払家賃として計上した。会計期間は4月1日〜3月31日である。当期の支払家賃勘定と前払家賃勘定に記入し、締め切りなさい。

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当期の流れ
日付内容仕訳
4/1前期末の前払分の再振替支払家賃 120,000 / 前払家賃 120,000
8/11年分の家賃の支払い支払家賃 360,000 / 普通預金 360,000
3/31翌期4月〜7月分の繰延べ(360,000×4/12)前払家賃 120,000 / 支払家賃 120,000
3/31当期の費用を損益勘定へ振替損益 360,000 / 支払家賃 360,000
支払家賃
借方貸方
4/1 前払家賃120,0003/31 前払家賃120,000
8/1 普通預金360,0003/31 損益360,000
480,000480,000
前払家賃
借方貸方
4/1 前期繰越120,0004/1 支払家賃120,000
3/31 支払家賃120,0003/31 次期繰越120,000
240,000240,000
4/1 前期繰越120,000

当期の支払家賃は、120,000+360,000-120,000=360,000円(ちょうど12か月分)。費用の勘定(支払家賃)は損益に振り替えて締め切り、資産の勘定(前払家賃)は次期繰越で締め切って、翌期首に前期繰越を記入する(第19章)。

08貯蔵品 ― 使い残した切手と収入印紙

第14章で、郵便切手は購入時に通信費、収入印紙は租税公課として費用処理すると学んだ。だが、決算日に使わずに残っている切手や印紙は、来期に使える「資産」だ。そこで、未使用分を貯蔵品(資産)に振り替える。

例題貯蔵品(ナイトオウル交通)

決算日に、郵便切手8,400円分と収入印紙20,000円分が未使用で残っていた。

解答・解説を見る▼
仕訳3月31日:決算整理
借方科目金額貸方科目金額
貯蔵品28,400通信費8,400
租税公課20,000
仕訳翌期4月1日:再振替仕訳
借方科目金額貸方科目金額
通信費8,400貯蔵品28,400
租税公課20,000

※事務用品などの消耗品は、3級では購入時に「消耗品費」として費用処理し、期末に未使用分があっても原則として資産に振り替えない。貯蔵品に振り替えるのは、主に郵便切手・収入印紙など、換金性の高いものである。

THINK ― 判断してみよう

「2か月分無料」の年払いキャンペーンは、本当に得なのか?

年払いプランは、通常価格の約17%引きだ。会計上は売上が来期に繰り延べられ、今期の業績にはほとんど貢献しない。社長は「割引しただけで、会社は損をしたのでは?」と不安になってきた。あなたなら、このキャンペーンをどう評価するか?

考え方の例を見る▼

損得は、会計上の利益だけでなく、お金の流れと顧客の行動で評価する。

  • 資金面の効果:3月に2億3,940万円の現金が一度に入った。この資金を新店のマシン投資に使えば、銀行から借りる必要がなくなり、利息を節約できる。17%の割引は、「1年分の前払いを受けるための金利」とも考えられる。これは銀行借入の金利よりずっと高い。だから、資金が本当に必要な場合に限って、割引の価値がある。
  • 解約率の改善:月払いの会員は、毎月やめる自由がある。年払いの会員は、少なくとも1年は在籍する。月払いの会員の平均在籍期間が、たとえば8か月なら、年払いで12か月在籍してもらうことは、割引後の会費でも売上を増やす効果がある。
  • リスク:前受収益は返金義務を伴う負債だ。集めたお金をすべて使い切ると、店舗の休業などで返金が必要になったときに資金が足りなくなる(第9章の前受金と同じ構造)。

結論は、「年払いの会員の継続率と、調達した資金の使い道まで含めて判断すべき」だ。会計上の売上が繰り延べられること自体は、損でも得でもない。それは単に、正しい時期に正しく計上されるというだけのことである。

09確認問題

問1決算日は3月31日である。次の決算整理仕訳をしなさい。

(1) 9月1日に1年分の保険料360,000円を支払い、全額を保険料として処理している。

(2) 12月1日に6か月分の地代180,000円を受け取り、全額を受取地代として処理している。

(3) 借入金2,000,000円(年利率3%)の利息は、毎年12月31日に1年分を後払いしている。当期の1月1日〜3月31日の利息を見越し計上する。

(4) 3月分の家賃120,000円をまだ受け取っていない。

(5) 郵便切手3,000円分と収入印紙10,000円分が未使用で残っている。

解答・解説を見る▼
仕訳(1) 前払分は4月〜8月の5か月:360,000×5/12=150,000円
借方科目金額貸方科目金額
前払保険料150,000保険料150,000
仕訳(2) 前受分は4月〜5月の2か月:180,000×2/6=60,000円
借方科目金額貸方科目金額
受取地代60,000前受地代60,000
仕訳(3) 3か月分:2,000,000×3%×3/12=15,000円
借方科目金額貸方科目金額
支払利息15,000未払利息15,000
仕訳(4)
借方科目金額貸方科目金額
未収家賃120,000受取家賃120,000
仕訳(5)
借方科目金額貸方科目金額
貯蔵品13,000通信費3,000
租税公課10,000

問2問1の(1)について、翌期首の再振替仕訳をしなさい。また、翌期の9月1日に再び1年分の保険料360,000円を支払ったとすると、翌期の決算整理後の保険料勘定の残高はいくらになるか。

解答・解説を見る▼
仕訳翌期4月1日:再振替仕訳
借方科目金額貸方科目金額
保険料150,000前払保険料150,000

翌期の保険料:再振替150,000円+9月1日の支払い360,000円-翌期末の前払分150,000円=360,000円(ちょうど12か月分)

問3次の(1)〜(4)の下線部の勘定科目として、正しいものを語群から選びなさい。

(1) パソコンを購入し、代金は翌月払いとした。→ __ (2) 決算日に、当月分の給料が未払いだった。→ __ (3) 商品の内金を受け取った。→ __ (4) 決算日に、来期分の家賃を受け取っていた。→ __

語群:未払金、未払費用(未払給料)、前受金、前受収益(前受家賃)

解答・解説を見る▼

(1) 未払金 (2) 未払給料(未払費用) (3) 前受金 (4) 前受家賃(前受収益)

期中の個別取引から生じるのが未払金・前受金、継続的なサービスの契約について決算で調整するのが未払費用・前受収益だ。

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓会計は発生主義。収益は価値を提供したとき、費用は価値を費やしたときに計上する
  • ✓繰延べ:前払費用(資産)・前受収益(負債)は、当期の費用・収益から来期分を取り除く
  • ✓見越し:未払費用(負債)・未収収益(資産)は、まだお金が動いていない当期分を計上する
  • ✓翌期首には、決算整理仕訳の逆の再振替仕訳を行い、二重計上を防ぐ
  • ✓未使用の切手・収入印紙は貯蔵品(資産)に振り替える
  • ✓前受けの売上を受取時に全額計上するのは、粉飾の王道。経過勘定は「いつの売上か」を厳格に区切るための仕組みである