第4部 信用という名の時限爆弾
「売れた」のに、なぜ口座にお金がないのか?
売上が50%伸び、利益も過去最高。なのに預金は半分に減った。掛け売り、カード決済、商品券――「売ってから入金されるまでの時間」に潜む罠と、それを記録する勘定科目を学ぶ。
GOALS
この章で学ぶこと
- ▸売掛金・買掛金の仕訳と、売掛金元帳・買掛金元帳の役割を理解する
- ▸クレジット売掛金(手数料の処理を含む)の仕訳ができる
- ▸受取商品券の仕訳ができる
- ▸「成長すると現金が減る」運転資金の仕組みを説明できる
この章の目次▼
QUESTION ― この章の問い
売れば売るほど、お金が消えていく
洛北ミートにとって、この1年は夢のようだった。
新規出店ラッシュの焼肉店や居酒屋チェーンとの取引が次々に決まり、月商は1億円から1億5,000万円へ。わずか1年で50%の成長だ。利益率も落ちていない。今期の税引後利益は3,000万円と、創業以来の最高益になる見込みだった。
ところが、決算前に預金通帳を開いた社長は、言葉を失った。
1年前に6,000万円あった預金が、2,900万円まで減っていた。設備投資も、借入金の返済も、ほとんどしていない。誰かが使い込んだ形跡もない。
利益が3,000万円出ているのに、お金が3,100万円減っている。売上が伸びるほど、お金が消えていく。いったい、お金はどこへ行ったのか?
01掛取引 ― 「信用」で売り、「信用」で買う
問いを解く鍵は、洛北ミートの取引のほぼすべてが掛けで行われていることにある。
掛取引とは、商品を先に引き渡し、代金は後日まとめて受け払いする取引だ。「月末締め・翌月末払い」なら、10月中に納品した分の代金は、11月末にまとめて支払われる。相手を信用して、代金の受け取りを待つのである。
| 勘定科目 | 要素 | 意味 |
|---|---|---|
| 売掛金 | 資産 | 商品を掛けで売ったときの、後で代金を受け取る権利 |
| 買掛金 | 負債 | 商品を掛けで仕入れたときの、後で代金を支払う義務 |
例題洛北ミートの掛取引
(1) 焼肉店「炎(ほむら)」に牛ばら肉720,000円を掛けで販売した。
(2) 畜産会社Bから牛ばら肉420,000円を掛けで仕入れた。
(3) 焼肉店「炎」から、前月分の売掛金980,000円が普通預金に振り込まれた。
(4) 畜産会社Bに、買掛金600,000円を普通預金から振り込んで支払った。
解答・解説を見る▼
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 720,000 | 売上 | 720,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入 | 420,000 | 買掛金 | 420,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 980,000 | 売掛金 | 980,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 600,000 | 普通預金 | 600,000 |
02売掛金元帳と買掛金元帳 ― 取引先ごとの「貸し借り台帳」
洛北ミートの得意先は約150店。総勘定元帳の売掛金勘定を見れば、売掛金の合計は分かる。だが、「どの店に、いくら貸しているのか」は分からない。これでは、支払いが遅れている店を見つけることも、請求書を作ることもできない。
そこで、取引先ごとに口座を設けて売掛金・買掛金の増減を記録する補助簿を作る。それが売掛金元帳(得意先元帳)と買掛金元帳(仕入先元帳)だ。
| 日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | 借/貸 | 残高 |
|---|---|---|---|---|---|
| 10/1 | 前月繰越 | 980,000 | 借 | 980,000 | |
| 10/12 | 売上 | 720,000 | 借 | 1,700,000 | |
| 10/31 | 普通預金で回収 | 980,000 | 借 | 720,000 | |
| 10/31 | 次月繰越 | 720,000 | |||
| 1,700,000 | 1,700,000 |
表は横にスクロールできます →
※売掛金・買掛金の代わりに、取引先の名前(例:「焼肉店炎」)をそのまま勘定科目として使う方法を人名勘定という。日本商工会議所の勘定科目表では「〇〇商店」が売掛金・買掛金の許容科目とされているが、ふつうは売掛金・買掛金を使えばよい。
| 得意先 | 10月末残高 | 回収条件 |
|---|---|---|
| 焼肉店「炎」 | 720,000 | 月末締め・翌月末払い |
| おかわり堂 | 18,500,000 | 月末締め・翌月末払い |
| 居酒屋チェーンA | 12,400,000 | 月末締め・翌々月末払い |
| その他 約150店 | 193,380,000 | 店ごとに異なる |
| 合計(=売掛金勘定の残高) | 225,000,000 | 月商の1.5か月分 |
03クレジット売掛金 ― カード払いは「カード会社への売掛金」
次は、IRONWORKS 24の話だ。会員の多くは、月会費をクレジットカードで支払う。
カードで支払われた代金は、すぐには入金されない。カード会社がいったん立て替え、決済手数料を差し引いて、後日ジムに入金する。つまり、ジムにとっての債権の相手は、会員ではなくカード会社だ。
この債権は、通常の売掛金と区別してクレジット売掛金(資産)で処理する。カード会社に支払う手数料は支払手数料(費用)とし、販売した時点で計上する。
例題IRONWORKS 24のカード決済
(1) 6月分の月会費のうち、クレジットカード決済分は2,000,000円だった。カード会社への決済手数料は売上の3%である。
(2) 7月末、カード会社から、手数料を差し引いた金額が普通預金に入金された。
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| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| クレジット売掛金 | 1,940,000 | 売上 | 2,000,000 |
| 支払手数料 | 60,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,940,000 | クレジット売掛金 | 1,940,000 |
売上は手数料を差し引く前の総額(2,000,000円)で計上する。手数料60,000円(2,000,000円×3%)は費用。クレジット売掛金は、実際に入金される1,940,000円になる。
04受取商品券 ― 他社が発行した商品券は「代金を受け取る権利」
おかわり堂では、全国共通のお食事券や、自治体と商店街が発行する地域振興券も使える。客がこれらの商品券で支払ったとき、店はまだ現金を受け取っていない。後日、商品券の発行元に商品券を送って精算し、代金を受け取る。
この、他社が発行した商品券を受け取ったときの「後で代金を受け取る権利」は、受取商品券(資産)で処理する。
例題おかわり堂の商品券払い
(1) 学生グループの宴会代金35,000円のうち、30,000円は地域振興券で、残りは現金で受け取った。
(2) 月末に、受け取った地域振興券30,000円を発行元に送付して精算を依頼し、同額が普通預金に入金された。
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| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 受取商品券 | 30,000 | 売上 | 35,000 |
| 現金 | 5,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 30,000 | 受取商品券 | 30,000 |
※自社が発行した商品券を販売したときは、将来その商品券で商品を引き渡す義務が生じる。これは負債となるが、2級以降の論点である。3級で扱うのは、他社が発行した商品券を受け取る側の処理だ。
05答え合わせ ― お金は「売掛金」に姿を変えていた
ANSWER ― 答え合わせ
成長は、現金を食べる
洛北ミートのお金は、消えたのではない。売掛金と在庫に姿を変えていたのだ。
洛北ミートは、売った代金を平均45日後に受け取る。一方、仕入れた肉の代金は、畜産会社に平均20日後に支払わなければならない。さらに、肉を仕入れてから売るまで、平均10日は在庫として冷蔵庫に眠っている。
つまり洛北ミートは、肉の代金を払ってから回収するまでの間、ずっと自分のお金で立て替え続けている。そして売上が増えると、この「立て替え」の金額も比例して膨らむ。
| 項目 | 1年前 | 現在 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 月商 | 1億円 | 1億5,000万円 | +5,000万円 |
| 売掛金(売上の約45日分) | 1億5,000万円 | 2億2,500万円 | +7,500万円 |
| 在庫(仕入の約10日分) | 2,700万円 | 4,000万円 | +1,300万円 |
| 買掛金(仕入の約20日分) | 5,300万円 | 8,000万円 | +2,700万円 |
| 運転資金(売掛金+在庫-買掛金) | 1億2,400万円 | 1億8,500万円 | +6,100万円 |
売上の伸びに合わせて、立て替えなければならないお金(運転資金)が6,100万円も増えた。税引後利益3,000万円をすべてつぎ込んでも、まだ3,100万円足りない。その不足分だけ、預金が減ったのである。
(6,000万円+3,000万円-6,100万円=2,900万円)
掛けで売るということは、取引先に無利息でお金を貸しているのと同じだ。売上が伸びるほど、貸しているお金も膨らむ。これが「売れたのに、お金がない」の正体だ。
THINK ― 判断してみよう
洛北ミートの資金繰りを立て直せ
来期も、月商は2億円まで伸びる見通しだ。このままでは、運転資金はさらに6,000万円以上増え、預金は底をつく。あなたなら、どんな手を打つか?
考え方の例を見る▼
運転資金を減らす(CCCを縮める)手と、運転資金を調達する手の両面から考える。
CCCを縮める
- 回収を早める:請求書の発行を月末締めの翌営業日に早め、口座振替での自動回収に切り替える。新規の得意先には、回収サイトの短い条件を提示する。
- 滞留の監視:売掛金元帳を毎週チェックし、支払期日を過ぎた得意先には即座に連絡する。1か月の遅れを放置しないことが、貸倒れの防止にもなる(第11章)。
- 在庫の圧縮:発注を需要予測に合わせて細かくし、在庫日数を10日から7日に縮める。
- 支払条件の交渉:取引量の増加を交渉材料に、畜産会社への支払いサイトを20日から30日に延ばしてもらえないか相談する。
運転資金を調達する
- 銀行の運転資金融資:成長にともなう運転資金の増加は、銀行にとって説明しやすい融資の理由だ。売掛金元帳と得意先の信用状況を示し、短期の借入れや当座借越の枠を確保する。
- 売掛金の早期資金化:売掛債権を期日前に資金化するサービス(ファクタリングなど)もあるが、手数料がかかる。2級で学ぶ「債権の譲渡」の世界だ。
最後に、社長に伝えたいのはこれだ。「売上の成長率に、資金の成長が追いつかない成長は、会社を殺します」。資金計画のない拡大は、序章のまんぷく食堂と同じ道をたどる。
06確認問題
問1次の取引を仕訳しなさい。
(1) 商品250,000円をクレジットカード払いの条件で販売した。カード会社への手数料は販売代金の4%であり、販売時に計上する。
(2) (1)の代金が、手数料を差し引かれて普通預金に入金された。
(3) 商品12,000円を販売し、代金のうち10,000円は他社が発行した商品券で、残額は現金で受け取った。
(4) 得意先から売掛金350,000円が普通預金に振り込まれた。
解答・解説を見る▼
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| クレジット売掛金 | 240,000 | 売上 | 250,000 |
| 支払手数料 | 10,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 240,000 | クレジット売掛金 | 240,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 受取商品券 | 10,000 | 売上 | 12,000 |
| 現金 | 2,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 350,000 | 売掛金 | 350,000 |
問2次の資料から、得意先「居酒屋A」に対する11月末の売掛金残高を求めなさい。
11/1 前月繰越 400,000円 11/8 掛け売上 250,000円 11/10 返品(11/8の売上分)20,000円 11/30 普通預金への入金(前月分の回収)400,000円
解答・解説を見る▼
400,000+250,000-20,000-400,000=230,000円
返品は売上の取り消しなので、売掛金を減らす(売上/売掛金)。売掛金元帳では貸方に記入する。
問3売上債権の回収日数60日、在庫の保有日数15日、仕入債務の支払日数30日の会社のキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は何日か。また、この会社の売上が急増したとき、資金繰りはどうなりやすいか。
解答・解説を見る▼
CCC=60+15-30=45日。
仕入代金を払ってから売上代金を回収するまで45日分を立て替えているため、売上が急増すると、売掛金と在庫が膨らみ、必要な運転資金が増えて資金繰りが苦しくなりやすい(利益が出ていても現金が不足する)。
SUMMARY
この章のまとめ
- ✓商品売買の後払いは、売る側が売掛金(資産)、買う側が買掛金(負債)
- ✓売掛金元帳(得意先元帳)・買掛金元帳(仕入先元帳)は、取引先ごとの補助簿。合計は総勘定元帳の勘定残高と一致する
- ✓カード払いはクレジット売掛金。販売時に手数料を支払手数料として計上し、売上は総額で計上する
- ✓他社発行の商品券を受け取ったら受取商品券。精算時に入金処理する
- ✓掛け売りは「無利息で貸している」のと同じ。売上が伸びると運転資金が膨らみ、利益が出ても現金が減る
- ✓CCC=回収日数+在庫日数-支払日数。CCCが長い会社ほど、成長に多くの資金が必要