簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第4部 信用という名の時限爆弾

第7章売掛金・買掛金・クレジット売掛金・受取商品券

「売れた」のに、なぜ口座にお金がないのか?

売上が50%伸び、利益も過去最高。なのに預金は半分に減った。掛け売り、カード決済、商品券――「売ってから入金されるまでの時間」に潜む罠と、それを記録する勘定科目を学ぶ。

読了目安 30分難易度 ★★☆

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01掛取引 ― 「信用」で売り、「信用」で買う
  2. 02売掛金元帳と買掛金元帳 ― 取引先ごとの「貸し借り台帳」
  3. 03クレジット売掛金 ― カード払いは「カード会社への売掛金」
  4. 04受取商品券 ― 他社が発行した商品券は「代金を受け取る権利」
  5. 05答え合わせ ― お金は「売掛金」に姿を変えていた
  6. 06確認問題

QUESTION ― この章の問い

売れば売るほど、お金が消えていく

洛北ミートにとって、この1年は夢のようだった。

新規出店ラッシュの焼肉店や居酒屋チェーンとの取引が次々に決まり、月商は1億円から1億5,000万円へ。わずか1年で50%の成長だ。利益率も落ちていない。今期の税引後利益は3,000万円と、創業以来の最高益になる見込みだった。

ところが、決算前に預金通帳を開いた社長は、言葉を失った。

1年前に6,000万円あった預金が、2,900万円まで減っていた。設備投資も、借入金の返済も、ほとんどしていない。誰かが使い込んだ形跡もない。

利益が3,000万円出ているのに、お金が3,100万円減っている。売上が伸びるほど、お金が消えていく。いったい、お金はどこへ行ったのか?

01掛取引 ― 「信用」で売り、「信用」で買う

問いを解く鍵は、洛北ミートの取引のほぼすべてが掛けで行われていることにある。

掛取引とは、商品を先に引き渡し、代金は後日まとめて受け払いする取引だ。「月末締め・翌月末払い」なら、10月中に納品した分の代金は、11月末にまとめて支払われる。相手を信用して、代金の受け取りを待つのである。

掛取引で使う2つの勘定科目
勘定科目要素意味
売掛金資産商品を掛けで売ったときの、後で代金を受け取る権利
買掛金負債商品を掛けで仕入れたときの、後で代金を支払う義務

例題洛北ミートの掛取引

(1) 焼肉店「炎(ほむら)」に牛ばら肉720,000円を掛けで販売した。

(2) 畜産会社Bから牛ばら肉420,000円を掛けで仕入れた。

(3) 焼肉店「炎」から、前月分の売掛金980,000円が普通預金に振り込まれた。

(4) 畜産会社Bに、買掛金600,000円を普通預金から振り込んで支払った。

解答・解説を見る▼
仕訳(1) 掛け売上:売掛金(資産)の増加
借方科目金額貸方科目金額
売掛金720,000売上720,000
仕訳(2) 掛け仕入:買掛金(負債)の増加
借方科目金額貸方科目金額
仕入420,000買掛金420,000
仕訳(3) 売掛金の回収:売掛金の減少
借方科目金額貸方科目金額
普通預金980,000売掛金980,000
仕訳(4) 買掛金の支払い:買掛金の減少
借方科目金額貸方科目金額
買掛金600,000普通預金600,000

02売掛金元帳と買掛金元帳 ― 取引先ごとの「貸し借り台帳」

洛北ミートの得意先は約150店。総勘定元帳の売掛金勘定を見れば、売掛金の合計は分かる。だが、「どの店に、いくら貸しているのか」は分からない。これでは、支払いが遅れている店を見つけることも、請求書を作ることもできない。

そこで、取引先ごとに口座を設けて売掛金・買掛金の増減を記録する補助簿を作る。それが売掛金元帳(得意先元帳)と買掛金元帳(仕入先元帳)だ。

売掛金元帳(得意先元帳) 焼肉店「炎」
日付摘要借方貸方借/貸残高
10/1前月繰越980,000借980,000
10/12売上720,000借1,700,000
10/31普通預金で回収980,000借720,000
10/31次月繰越720,000
1,700,0001,700,000

表は横にスクロールできます →

※売掛金・買掛金の代わりに、取引先の名前(例:「焼肉店炎」)をそのまま勘定科目として使う方法を人名勘定という。日本商工会議所の勘定科目表では「〇〇商店」が売掛金・買掛金の許容科目とされているが、ふつうは売掛金・買掛金を使えばよい。

10月末の売掛金の内訳(抜粋)
得意先10月末残高回収条件
焼肉店「炎」720,000月末締め・翌月末払い
おかわり堂18,500,000月末締め・翌月末払い
居酒屋チェーンA12,400,000月末締め・翌々月末払い
その他 約150店193,380,000店ごとに異なる
合計(=売掛金勘定の残高)225,000,000月商の1.5か月分

03クレジット売掛金 ― カード払いは「カード会社への売掛金」

次は、IRONWORKS 24の話だ。会員の多くは、月会費をクレジットカードで支払う。

カードで支払われた代金は、すぐには入金されない。カード会社がいったん立て替え、決済手数料を差し引いて、後日ジムに入金する。つまり、ジムにとっての債権の相手は、会員ではなくカード会社だ。

この債権は、通常の売掛金と区別してクレジット売掛金(資産)で処理する。カード会社に支払う手数料は支払手数料(費用)とし、販売した時点で計上する。

例題IRONWORKS 24のカード決済

(1) 6月分の月会費のうち、クレジットカード決済分は2,000,000円だった。カード会社への決済手数料は売上の3%である。

(2) 7月末、カード会社から、手数料を差し引いた金額が普通預金に入金された。

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仕訳(1) 販売時:手数料を差し引いた額をクレジット売掛金とする
借方科目金額貸方科目金額
クレジット売掛金1,940,000売上2,000,000
支払手数料60,000
仕訳(2) 入金時
借方科目金額貸方科目金額
普通預金1,940,000クレジット売掛金1,940,000

売上は手数料を差し引く前の総額(2,000,000円)で計上する。手数料60,000円(2,000,000円×3%)は費用。クレジット売掛金は、実際に入金される1,940,000円になる。

04受取商品券 ― 他社が発行した商品券は「代金を受け取る権利」

おかわり堂では、全国共通のお食事券や、自治体と商店街が発行する地域振興券も使える。客がこれらの商品券で支払ったとき、店はまだ現金を受け取っていない。後日、商品券の発行元に商品券を送って精算し、代金を受け取る。

この、他社が発行した商品券を受け取ったときの「後で代金を受け取る権利」は、受取商品券(資産)で処理する。

例題おかわり堂の商品券払い

(1) 学生グループの宴会代金35,000円のうち、30,000円は地域振興券で、残りは現金で受け取った。

(2) 月末に、受け取った地域振興券30,000円を発行元に送付して精算を依頼し、同額が普通預金に入金された。

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仕訳(1) 受け取った商品券は「受取商品券」
借方科目金額貸方科目金額
受取商品券30,000売上35,000
現金5,000
仕訳(2) 精算されたとき
借方科目金額貸方科目金額
普通預金30,000受取商品券30,000

※自社が発行した商品券を販売したときは、将来その商品券で商品を引き渡す義務が生じる。これは負債となるが、2級以降の論点である。3級で扱うのは、他社が発行した商品券を受け取る側の処理だ。

05答え合わせ ― お金は「売掛金」に姿を変えていた

ANSWER ― 答え合わせ

成長は、現金を食べる

洛北ミートのお金は、消えたのではない。売掛金と在庫に姿を変えていたのだ。

洛北ミートは、売った代金を平均45日後に受け取る。一方、仕入れた肉の代金は、畜産会社に平均20日後に支払わなければならない。さらに、肉を仕入れてから売るまで、平均10日は在庫として冷蔵庫に眠っている。

つまり洛北ミートは、肉の代金を払ってから回収するまでの間、ずっと自分のお金で立て替え続けている。そして売上が増えると、この「立て替え」の金額も比例して膨らむ。

1年間で膨らんだ「立て替え」(運転資金)
項目1年前現在増減
月商1億円1億5,000万円+5,000万円
売掛金(売上の約45日分)1億5,000万円2億2,500万円+7,500万円
在庫(仕入の約10日分)2,700万円4,000万円+1,300万円
買掛金(仕入の約20日分)5,300万円8,000万円+2,700万円
運転資金(売掛金+在庫-買掛金)1億2,400万円1億8,500万円+6,100万円

売上の伸びに合わせて、立て替えなければならないお金(運転資金)が6,100万円も増えた。税引後利益3,000万円をすべてつぎ込んでも、まだ3,100万円足りない。その不足分だけ、預金が減ったのである。

(6,000万円+3,000万円-6,100万円=2,900万円)

掛けで売るということは、取引先に無利息でお金を貸しているのと同じだ。売上が伸びるほど、貸しているお金も膨らむ。これが「売れたのに、お金がない」の正体だ。

THINK ― 判断してみよう

洛北ミートの資金繰りを立て直せ

来期も、月商は2億円まで伸びる見通しだ。このままでは、運転資金はさらに6,000万円以上増え、預金は底をつく。あなたなら、どんな手を打つか?

考え方の例を見る▼

運転資金を減らす(CCCを縮める)手と、運転資金を調達する手の両面から考える。

CCCを縮める

  • 回収を早める:請求書の発行を月末締めの翌営業日に早め、口座振替での自動回収に切り替える。新規の得意先には、回収サイトの短い条件を提示する。
  • 滞留の監視:売掛金元帳を毎週チェックし、支払期日を過ぎた得意先には即座に連絡する。1か月の遅れを放置しないことが、貸倒れの防止にもなる(第11章)。
  • 在庫の圧縮:発注を需要予測に合わせて細かくし、在庫日数を10日から7日に縮める。
  • 支払条件の交渉:取引量の増加を交渉材料に、畜産会社への支払いサイトを20日から30日に延ばしてもらえないか相談する。

運転資金を調達する

  • 銀行の運転資金融資:成長にともなう運転資金の増加は、銀行にとって説明しやすい融資の理由だ。売掛金元帳と得意先の信用状況を示し、短期の借入れや当座借越の枠を確保する。
  • 売掛金の早期資金化:売掛債権を期日前に資金化するサービス(ファクタリングなど)もあるが、手数料がかかる。2級で学ぶ「債権の譲渡」の世界だ。

最後に、社長に伝えたいのはこれだ。「売上の成長率に、資金の成長が追いつかない成長は、会社を殺します」。資金計画のない拡大は、序章のまんぷく食堂と同じ道をたどる。

06確認問題

問1次の取引を仕訳しなさい。

(1) 商品250,000円をクレジットカード払いの条件で販売した。カード会社への手数料は販売代金の4%であり、販売時に計上する。

(2) (1)の代金が、手数料を差し引かれて普通預金に入金された。

(3) 商品12,000円を販売し、代金のうち10,000円は他社が発行した商品券で、残額は現金で受け取った。

(4) 得意先から売掛金350,000円が普通預金に振り込まれた。

解答・解説を見る▼
仕訳(1)
借方科目金額貸方科目金額
クレジット売掛金240,000売上250,000
支払手数料10,000
仕訳(2)
借方科目金額貸方科目金額
普通預金240,000クレジット売掛金240,000
仕訳(3)
借方科目金額貸方科目金額
受取商品券10,000売上12,000
現金2,000
仕訳(4)
借方科目金額貸方科目金額
普通預金350,000売掛金350,000

問2次の資料から、得意先「居酒屋A」に対する11月末の売掛金残高を求めなさい。

11/1 前月繰越 400,000円 11/8 掛け売上 250,000円 11/10 返品(11/8の売上分)20,000円 11/30 普通預金への入金(前月分の回収)400,000円

解答・解説を見る▼

400,000+250,000-20,000-400,000=230,000円

返品は売上の取り消しなので、売掛金を減らす(売上/売掛金)。売掛金元帳では貸方に記入する。

問3売上債権の回収日数60日、在庫の保有日数15日、仕入債務の支払日数30日の会社のキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は何日か。また、この会社の売上が急増したとき、資金繰りはどうなりやすいか。

解答・解説を見る▼

CCC=60+15-30=45日。

仕入代金を払ってから売上代金を回収するまで45日分を立て替えているため、売上が急増すると、売掛金と在庫が膨らみ、必要な運転資金が増えて資金繰りが苦しくなりやすい(利益が出ていても現金が不足する)。

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓商品売買の後払いは、売る側が売掛金(資産)、買う側が買掛金(負債)
  • ✓売掛金元帳(得意先元帳)・買掛金元帳(仕入先元帳)は、取引先ごとの補助簿。合計は総勘定元帳の勘定残高と一致する
  • ✓カード払いはクレジット売掛金。販売時に手数料を支払手数料として計上し、売上は総額で計上する
  • ✓他社発行の商品券を受け取ったら受取商品券。精算時に入金処理する
  • ✓掛け売りは「無利息で貸している」のと同じ。売上が伸びると運転資金が膨らみ、利益が出ても現金が減る
  • ✓CCC=回収日数+在庫日数-支払日数。CCCが長い会社ほど、成長に多くの資金が必要