簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第2部 キャッシュの最前線

第4章預金・小切手・当座借越・小口現金

残高ゼロの口座から、なぜ500万円を払えたのか?

普通預金、定期預金、そして小切手を振り出すための当座預金。銀行口座の仕組みを知ると、会社の「命綱」と「即死トラップ」の両方が見えてくる。現場の小さな支払いを支える小口現金まで、預金の全論点を学ぶ。

読了目安 35分難易度 ★★☆

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01預金の基本 ― 普通預金と定期預金
  2. 02当座預金と小切手 ― 「紙1枚」で支払うための口座
  3. 03答えの鍵 ― 当座借越
  4. 04小口現金 ― 現場の「小さな支払い」を仕組みで管理する
  5. 05確認問題

QUESTION ― この章の問い

残高ゼロの口座から、なぜ500万円の小切手が落ちたのか

月末の午後、洛北ミートの経理担当・村井の顔から血の気が引いた。

今朝、仕入先の畜産会社に渡した500万円の小切手。それが今日、銀行に持ち込まれる。だが、当座預金の口座残高は、得意先からの入金が遅れているせいで、ほぼゼロだった。

「不渡りになる……」

小切手が残高不足で落ちなければ「不渡り」になる。不渡りを半年以内に2回出せば、銀行取引停止処分。それは企業にとって、事実上の死刑宣告だ。

ところが夕方、銀行のシステムを確認した村井は、目を疑った。小切手は何事もなかったかのように決済されていた。口座の残高は「マイナス480万円」と表示されている。

残高ゼロの口座から、なぜ500万円が支払えたのか? そして、このマイナス残高の正体は何なのか?

01預金の基本 ― 普通預金と定期預金

まずは基本から始めよう。会社が銀行に預けているお金は、預金という資産だ。代表的なのは次の3つである。

会社が使う主な預金
種類特徴会社での主な使い道
普通預金いつでも預け入れ・引き出しができる。利息がつく売上の入金、給料・経費の振込、口座振替
定期預金一定期間引き出せない代わりに、普通預金より利息が高い余裕資金の運用、借入れの担保
当座預金小切手や手形の支払いに使う決済用の口座。利息はつかない取引先への小切手・手形による支払い

普通預金と定期預金の仕訳は、現金と同じ要領だ。預金が増えたら借方、減ったら貸方に書く。

例題IRONWORKS 24の預金取引

(1) 6月分の会費のうち、口座振替分3,200,000円が普通預金に入金された。

(2) 普通預金から2,000,000円を、1年満期の定期預金に預け替えた。

(3) 定期預金2,000,000円が満期となり、利息6,000円とともに普通預金に入金された。

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仕訳(1) 会費の入金(ジムの売上)
借方科目金額貸方科目金額
普通預金3,200,000売上3,200,000
仕訳(2) 普通預金から定期預金へ
借方科目金額貸方科目金額
定期預金2,000,000普通預金2,000,000
仕訳(3) 満期・利息の受取り
借方科目金額貸方科目金額
普通預金2,006,000定期預金2,000,000
受取利息6,000

預金どうしの振り替えは「資産の増加・資産の減少」。利息は収益(受取利息)だ。

※実際の預金利息には税金(源泉所得税など)が差し引かれるが、3級では問題文の指示がない限り考慮しない。

複数の口座は「銀行名つきの勘定」で管理する

IRONWORKS 24は、会費の引き落とし用に京都中央銀行、給料の振込用に洛北信用金庫と、目的別に複数の普通預金口座を持っている。口座が複数あると、「普通預金」という1つの勘定だけでは、どの口座にいくらあるのか分からなくなる。

そこで、口座ごとに勘定科目を分けて管理する方法がある。

仕訳京都中央銀行の普通預金から、洛北信用金庫の普通預金へ1,500,000円を移した
借方科目金額貸方科目金額
普通預金洛北信用金庫1,500,000普通預金京都中央銀行1,500,000

※試験では「普通預金A銀行」「当座預金B銀行」のように、問題文で指定された勘定科目を使う。指定がなければ「普通預金」でよい。

02当座預金と小切手 ― 「紙1枚」で支払うための口座

当座預金は、小切手で支払いをするための口座だ。会社は銀行と当座取引契約を結び、小切手帳を受け取る。支払いのときは、小切手に金額と署名を書いて相手に渡す(これを振り出すという)。受け取った相手が銀行に小切手を持ち込むと、振り出した会社の当座預金から代金が引き落とされる。

小切手による支払いの流れ

  1. 1

    洛北ミートが小切手を振り出す

    仕入先の畜産会社に、金額を書いた小切手を渡す

  2. 2

    畜産会社が銀行に持ち込む

    自社の取引銀行に小切手を預ける(取立てを依頼する)

  3. 3

    洛北ミートの当座預金から引き落とされる

    手形交換所(現在は電子交換所)を通じて決済され、代金が畜産会社の口座に入る

簿記では、小切手を振り出した時点で、当座預金を減らす。実際の引き落としは相手が銀行に持ち込んだときだが、振り出した瞬間に「支払いを済ませた」と考えるのだ。

仕訳洛北ミートは、畜産会社から牛肉を仕入れ、代金5,000,000円を小切手を振り出して支払った
借方科目金額貸方科目金額
仕入5,000,000当座預金5,000,000

※「仕入」は、販売するための商品を買ったときに使う勘定科目(第5章)。

小切手の仕訳で間違えやすいのは、「誰が振り出した小切手か」だ。

小切手の仕訳 ― 誰が振り出したかで決まる
場面仕訳で使う勘定理由
自社が小切手を振り出して支払った当座預金(貸方)自社の当座預金が減る
他社が振り出した小切手を受け取った現金(借方)通貨代用証券(第3章)
他社振出の小切手を受け取り、ただちに当座預金に預け入れた当座預金(借方)現金を経由せず当座預金が増える
自社が以前振り出した小切手を受け取った当座預金(借方)振り出したときに減らした当座預金が戻る

例題小切手の受取り3パターン

洛北ミートは、得意先の飲食店3社から売掛金(後払いの代金)をそれぞれ小切手で回収した。

(1) A社が振り出した小切手200,000円を受け取った。

(2) B社が振り出した小切手300,000円を受け取り、ただちに当座預金に預け入れた。

(3) 以前に洛北ミートがC社に振り出した小切手100,000円を、C社から受け取った。

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仕訳(1) 他人振出小切手 → 現金
借方科目金額貸方科目金額
現金200,000売掛金200,000
仕訳(2) ただちに当座預金へ → 当座預金
借方科目金額貸方科目金額
当座預金300,000売掛金300,000
仕訳(3) 自己振出小切手の戻り → 当座預金
借方科目金額貸方科目金額
当座預金100,000売掛金100,000

(3)は、洛北ミートが振り出した小切手が、まだ銀行に持ち込まれないまま、別の取引の支払いとして戻ってきたケース。振り出したときに減らした当座預金を元に戻すので、当座預金の増加とする。

当座預金出納帳(洛北ミート・10月)
日付摘要預入引出借/貸残高
10/1前月繰越200,000借200,000
10/5畜産会社へ買掛金支払い 小切手No.1055,000,000貸4,800,000
10/20得意先から売掛金回収6,000,000借1,200,000
10/31次月繰越1,200,000
6,200,0006,200,000
11/1前月繰越1,200,000借1,200,000

表は横にスクロールできます →

※「借/貸」欄は、残高が預金(借方残高)なら「借」、当座借越(貸方残高)なら「貸」と書く。10月5日の時点では、残高を超える小切手が決済されたので「貸 4,800,000」(当座借越)になっている。月末に「次月繰越」を引出欄に書いて締め切る。

03答えの鍵 ― 当座借越

さて、問いの答えに近づこう。洛北ミートの当座預金の残高はほぼゼロだったのに、500万円の小切手は決済された。それを可能にしたのが、当座借越(とうざかりこし)という契約だ。

ANSWER ― 答え合わせ

残高ゼロでも小切手が落ちた理由

洛北ミートは、メインバンクと借越限度額1,000万円の当座借越契約を結んでいた。前任の経理部長が、万が一に備えて用意しておいた命綱だ。

当座預金の残高20万円に対して500万円の小切手が持ち込まれたため、銀行は不足する480万円を自動的に立て替えた。口座に表示された「マイナス480万円」は、預金ではなく、銀行に対する480万円の借金である。

命綱は機能した。だが、同時に忘れてはならない。もし限度額を超えていたら、あるいは当座借越契約がなかったら、その小切手は不渡りになっていた。

当座借越の仕訳 ― 期中と決算で扱いが変わる

3級では、期中は当座預金の残高がマイナスになっても当座預金勘定のまま処理する。その結果、当座預金勘定が貸方残高になる。

当座預金(洛北ミート)
借方貸方
前日残高200,000仕入(小切手)5,000,000

貸方の合計(5,000,000円)が借方の合計(200,000円)を4,800,000円上回っている。これが「貸方残高4,800,000円」、つまり銀行からの借越額だ。

だが、マイナスの預金という資産は存在しない。そこで決算日には、貸方残高を当座借越(負債)または借入金(負債)に振り替えて、貸借対照表に負債として正しく表示する。

仕訳決算日:当座預金勘定の貸方残高4,800,000円を当座借越勘定に振り替えた
借方科目金額貸方科目金額
当座預金4,800,000当座借越4,800,000

※当座借越勘定ではなく「借入金」勘定に振り替えるよう指示されることもある。問題文の指示に従うこと。貸借対照表では「借入金」として表示する。

そして、翌期の最初の日(期首)には、決算日の振替仕訳と逆の仕訳を行って、当座預金勘定に戻す。これを再振替仕訳という。

仕訳翌期首:再振替仕訳(決算日の仕訳の逆)
借方科目金額貸方科目金額
当座借越4,800,000当座預金4,800,000

THINK ― 判断してみよう

「当座借越の限度額を、3,000万円に増やしてもらおう」

今回の一件で肝を冷やした洛北ミートの社長が言った。「今回は助かった。だが次は分からない。銀行に頼んで、借越限度額を1,000万円から3,000万円に増やしてもらおう。そうすれば安心だ」。あなたなら、この提案にどう応えるか?

考え方の例を見る▼

限度額の引き上げは、選択肢の1つとして交渉する価値がある。ただし、それで「安心」とは言えない。

まず、当座借越は借金だ。限度額を増やしても、売掛金の回収が遅れているという根本の問題は解決しない。むしろ、借越に頼るほど利息がかさみ、「いつでも借りられる」という安心感が資金管理を甘くする。

次に、銀行は借越枠をいつでも見直せる立場にある。業績が悪化して本当に必要になったときほど、枠を減らされるリスクがある。最も必要なときに最も消えやすい命綱なのだ。

優先して打つべき手はこうだ。

  • 得意先ごとの売掛金の回収状況を毎週チェックし、遅れには即座に督促する(第7章)
  • 月末に支払いが集中しないよう、仕入先と支払日を調整する
  • 3か月先までの日次の資金繰り表を作り、残高がマイナスになる日を事前に把握する
  • そのうえで、借越枠は「使わないこと」を前提とした保険として確保する

04小口現金 ― 現場の「小さな支払い」を仕組みで管理する

最後に、現場の小さな支払いの管理方法を学ぼう。

おかわり堂の各店舗では、毎日のように細かい支払いが発生する。宅配便の送料、急に切れたゴミ袋、郵便切手、店長の銀行への交通費……。第3章で見たように、これをレジの売上金から払うと、現金過不足の原因になる。

そこで、会社は各店舗の店長に、少額の支払い専用の現金をあらかじめ渡しておく。これを小口現金(こぐちげんきん)という。お金を預かって支払いを担当する人を小口係(用度係)と呼ぶ。

例題おかわり堂・今出川店の小口現金

(1) 6月1日、本部の会計係は、今出川店の店長(小口係)に、小口現金として30,000円の小切手を振り出して渡した。

(2) 6月7日、店長から1週間分の支払いの報告を受けた。内訳は、郵便切手(通信費)3,000円、宅配便の送料(通信費)1,800円、ゴミ袋・洗剤(消耗品費)6,500円、銀行へのバス代(旅費交通費)460円。

(3) 報告を受けた会計係は、ただちに同額の小切手を振り出して補給した。

解答・解説を見る▼
仕訳(1) 小口現金の前渡し
借方科目金額貸方科目金額
小口現金30,000当座預金30,000
仕訳(2) 支払いの報告を受けたとき
借方科目金額貸方科目金額
通信費4,800小口現金11,760
消耗品費6,500
旅費交通費460
仕訳(3) 同額を補給したとき
借方科目金額貸方科目金額
小口現金11,760当座預金11,760

報告を受けた時点で、小口現金を使った分だけ減らし、費用を計上する。補給すると、小口現金は30,000円(30,000-11,760+11,760)に戻る。

仕訳報告と補給を同時に行った場合((2)と(3)をまとめた仕訳)
借方科目金額貸方科目金額
通信費4,800当座預金11,760
消耗品費6,500
旅費交通費460
小口現金出納帳(今出川店・6月第1週)
受入日付摘要支払通信費消耗品費旅費交通費
30,0006/1小切手受入
6/2郵便切手3,0003,000
6/3ゴミ袋・洗剤6,5006,500
6/4銀行へのバス代460460
6/5宅配便の送料1,8001,800
合計11,7604,8006,500460
11,7606/7本日補給
6/7次週繰越30,000
41,760合計41,760
30,0006/8前週繰越

表は横にスクロールできます →

※小口現金出納帳は、左端に「受入」欄があるのが特徴。支払いは内訳欄(費目別の列)にも記入し、週末に費目ごとの合計を出して会計係に報告する。補給のタイミング(週末に補給するか、翌週の初めに補給するか)は問題文で確認しよう。

05確認問題

問1次の取引を仕訳しなさい。

(1) 普通預金から3,000,000円を定期預金に預け替えた。

(2) 買掛金400,000円を支払うため、小切手を振り出した。

(3) 売掛金250,000円の回収として、得意先振出の小切手を受け取った。

(4) 売掛金180,000円の回収として、当社が以前に振り出した小切手を受け取った。

解答・解説を見る▼
仕訳(1)
借方科目金額貸方科目金額
定期預金3,000,000普通預金3,000,000
仕訳(2)
借方科目金額貸方科目金額
買掛金400,000当座預金400,000
仕訳(3) 他人振出小切手は現金
借方科目金額貸方科目金額
現金250,000売掛金250,000
仕訳(4) 自己振出小切手の戻りは当座預金
借方科目金額貸方科目金額
当座預金180,000売掛金180,000

問2決算日に、当座預金勘定が320,000円の貸方残高となっていた。これは当座借越契約(借越限度額1,000,000円)によるものである。決算整理仕訳と、翌期首の再振替仕訳をしなさい(当座借越勘定を用いる)。

解答・解説を見る▼
仕訳決算日
借方科目金額貸方科目金額
当座預金320,000当座借越320,000
仕訳翌期首(再振替仕訳)
借方科目金額貸方科目金額
当座借越320,000当座預金320,000

問3定額資金前渡法を採用している。小口係から、今週の支払いとして、文房具代(消耗品費)2,300円、タクシー代(旅費交通費)3,500円、はがき代(通信費)1,200円の報告を受け、ただちに同額の小切手を振り出して補給した。仕訳をしなさい。

解答・解説を見る▼
仕訳報告と補給を同時に行ったので、小口現金は相殺されて登場しない
借方科目金額貸方科目金額
消耗品費2,300当座預金7,000
旅費交通費3,500
通信費1,200

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓預金は資産。普通預金・定期預金・当座預金を区別し、複数口座は「普通預金〇〇銀行」のように口座別の勘定で管理できる
  • ✓小切手を振り出したら当座預金の減少。他人振出小切手の受取りは現金、自己振出小切手の戻りは当座預金
  • ✓当座借越は、残高を超えた支払いを銀行が立て替える契約。マイナス残高の正体は「借金」
  • ✓期中は当座預金のまま処理し、決算日に貸方残高を当座借越(または借入金)へ振り替え、翌期首に再振替する
  • ✓6か月以内に2回の不渡りで銀行取引停止。資金繰りの管理は会社の生命線
  • ✓小口現金は定額資金前渡法で管理する。報告時に費用を計上し、使った分だけ補給する