簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第2部 キャッシュの最前線

第3章現金と現金過不足

閉店後のレジ、3,200円足りない。犯人は誰だ?

レジの現金が合わない。そのとき、まず疑うべきは「人」ではなく「記録」だ。簿記の「現金」の範囲と、帳簿と現実のズレを正直に記録するための勘定科目「現金過不足」を学ぶ。

読了目安 25分難易度 ★★☆

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01簿記の「現金」は、お札と硬貨だけではない
  2. 02現金出納帳 ― 現金の動きを「時系列」で追う
  3. 03現金過不足 ― 帳簿と現実の「ズレ」を正直に記録する
  4. 04現金過不足の仕訳パターン ― 超過のときは逆になる
  5. 05人を疑う前に、仕組みを疑え ― 内部統制
  6. 06確認問題

QUESTION ― この章の問い

深夜3時、消えた3,200円

深夜3時、おかわり堂・出町柳店。最後の客がのれんをくぐって出ていくと、アルバイトリーダーの坂口がレジを締め始めた。

POSレジの画面が示す「あるべき現金」は412,800円。だが、何度数えても、ドロワーの中には409,600円しかない。

3,200円が、消えていた。

その夜のシフトは3人。翌朝、報告を受けた店長は険しい顔でスマートフォンを握った。「3人とも呼び出す。誰かが抜いたに決まってる」

本部の経理部長が、その電話を止めた。犯人探しを始める前に、帳簿の上でやるべきことがある。

はたして、3,200円を盗んだ「犯人」はいるのか?

01簿記の「現金」は、お札と硬貨だけではない

問いに入る前に、そもそも簿記でいう「現金」とは何かを確認しておこう。

簿記の現金には、日本銀行券(紙幣)や硬貨といった通貨に加えて、銀行などに持ち込めばすぐに通貨に換えられる証券も含まれる。これを通貨代用証券という。

簿記上の「現金」に含まれるもの
種類内容
通貨紙幣・硬貨
他人振出小切手取引先などが振り出した小切手。銀行に持ち込めば換金できる
送金小切手銀行が送金のために発行する小切手
郵便為替証書普通為替証書・定額小為替証書。郵便局で換金できる
配当金領収証株式の配当金を受け取るための証書
期限の到来した公社債の利札国債・社債などの利息を受け取る権利。期限が来れば換金できる
まぎらわしいが「現金」ではないもの
もの正しい勘定科目詳しくは
自分(自社)が振り出した小切手当座預金第4章
普通預金・定期預金普通預金・定期預金第4章
郵便切手・収入印紙通信費・租税公課(期末に未使用なら貯蔵品)第14・15章
他社が発行した商品券受取商品券第7章
クレジットカードでの売上クレジット売掛金第7章
約束手形受取手形第8章

例題学会の弁当500食の代金を、小切手で受け取った

おかわり堂は、近くの大学で開かれた学会から、弁当500食(1食800円、合計400,000円)の注文を受けて納品した。代金は、学会の事務局が振り出した小切手で受け取った。

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仕訳他人が振り出した小切手は、すぐに換金できるので「現金」
借方科目金額貸方科目金額
現金400,000売上400,000

「小切手を受け取った」と聞くと、つい「当座預金」としたくなる。だが、他人が振り出した小切手を受け取ったら現金だ。当座預金を使うのは、自社が振り出した小切手に関する取引である(第4章)。

※紙の小切手・手形は2027年3月末で廃止される予定であり、2027年4月以降の試験では、紙の小切手・手形に関する論点は出題区分表から削除される見込み(2025年12月公表の暫定版)2027年度〜範囲外。2026年度(2027年3月まで)の試験を受ける人は、引き続き必ず押さえておこう。

02現金出納帳 ― 現金の動きを「時系列」で追う

現金の動きは、仕訳帳と総勘定元帳(主要簿)にも記録される。だが現金は、毎日何十回も出入りする。そこで、現金の入出金だけを詳しく記録する専用の帳簿を設ける。それが現金出納帳(げんきんすいとうちょう)だ。

現金出納帳のように、主要簿を補って特定の取引を詳しく記録する帳簿を補助簿という(第16章)。

現金出納帳(おかわり堂・出町柳店)
日付摘要収入支出残高
5/31前日繰越(釣銭準備金)50,00050,000
5/31本日の現金売上341,500391,500
5/31普通預金へ預け入れ341,50050,000
5/31次日繰越50,000
合計391,500391,500

表は横にスクロールできます →

※1日の終わりに、残高を「次日繰越」として支出欄に記入し、収入と支出の合計を一致させて締め切る。翌日は「前日繰越」から始める。実際の店舗では、日々の売上はPOSレジで集計され、本部の経理がまとめて仕訳を行うことが多い。

03現金過不足 ― 帳簿と現実の「ズレ」を正直に記録する

さて、問いに戻ろう。出町柳店では、帳簿上の現金(412,800円)より、実際の現金(409,600円)が3,200円少なかった。

帳簿上の現金残高を帳簿残高、実際に数えた現金の金額を実際有高(じっさいありだか)という。この2つが一致しないとき、簿記では次の考え方をとる。

仕訳6月1日 現金の実際有高が帳簿残高より3,200円少なかった(不足)
借方科目金額貸方科目金額
現金過不足3,200現金3,200

現金が3,200円減ったので、現金を貸方に書いて帳簿残高を減らす。その相手を、借方の現金過不足とする。これで、帳簿の現金は実際有高の409,600円と一致した。

SCENE

2日後

6月3日、店長から電話がかかってきた。声が上ずっている。

「すみません……犯人、俺でした」

あの夜の0時過ぎ、ゴミ袋と食器用洗剤が切れた。店長はレジから2,400円を取り出し、向かいのコンビニで買ってきた。レシートは、エプロンのポケットに入ったままだった。

仕訳6月3日 不足額のうち2,400円は、消耗品の購入の記入漏れと判明した
借方科目金額貸方科目金額
消耗品費2,400現金過不足2,400

原因が判明した分は、現金過不足から本来の勘定科目に振り替える。消耗品費(費用)が発生していたのだから借方に、預けておいた現金過不足は貸方に書いて減らす。

残りの800円は、最後まで原因が分からなかった。混雑した時間帯に、お釣りを渡しすぎたのかもしれない。

仕訳3月31日(決算日) 残りの不足額800円は、原因が判明しなかった
借方科目金額貸方科目金額
雑損800現金過不足800

決算日になっても原因が分からない不足額は雑損(ざっそん・費用)に、超過額は雑益(ざつえき・収益)に振り替えて、現金過不足をゼロにする。

現金過不足
借方貸方
6/1 現金3,2006/3 消耗品費2,400
3/31 雑損800
3,2003,200

ANSWER ― 答え合わせ

犯人は「人」ではなく「記録されなかった取引」だった

消えた3,200円のうち、2,400円は店長自身が消耗品の購入に使い、記録を忘れていたものだった。残る800円も、盗まれたという証拠はない。お釣りの渡し間違いである可能性が高い。

もし店長が電話を止めずに3人を問い詰めていたら、無実のアルバイトを疑い、信頼を失い、人手不足の深夜帯のシフトに穴を開けていたかもしれない。

現金過不足という勘定科目は、「ズレがあった」という事実だけを先に記録し、原因の判断を保留するための道具だ。疑うより先に、記録する。調べる。それでも分からなければ、雑損として正直に処理する。この順番が、会社の数字と、そこで働く人の両方を守るのである。

04現金過不足の仕訳パターン ― 超過のときは逆になる

実際有高が帳簿残高より多い場合も、考え方は同じだ。まず現金を増やして実際有高に合わせ、相手を現金過不足とする。仕訳の左右が、不足のときとちょうど逆になる。

現金過不足の仕訳パターン
場面不足(実際<帳簿)のとき超過(実際>帳簿)のとき
①ズレを発見した現金過不足 / 現金現金 / 現金過不足
②原因が判明した正しい費用など / 現金過不足現金過不足 / 正しい収益など
③決算日まで原因不明雑損 / 現金過不足現金過不足 / 雑益

例題超過なのに「雑損」? ― 試験で最も狙われるパターン

期中に、現金の実際有高が帳簿残高より5,000円多かったため、現金過不足で処理していた。決算日に調べたところ、受取手数料8,000円の入金と、旅費交通費2,000円の支払いの記入漏れが判明した。残額は原因不明である。決算日の仕訳をしなさい。

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仕訳期中(超過の発見)
借方科目金額貸方科目金額
現金5,000現金過不足5,000
仕訳決算日
借方科目金額貸方科目金額
現金過不足5,000受取手数料8,000
旅費交通費2,000
雑損1,000

考え方は「まず判明した原因を正しく仕訳し、最後に差額を埋める」。

  • 現金過不足(貸方残高5,000円)をゼロにするため、借方に5,000円
  • 受取手数料の記入漏れ → 収益の発生なので貸方に8,000円
  • 旅費交通費の記入漏れ → 費用の発生なので借方に2,000円
  • この時点で借方7,000円、貸方8,000円。差額1,000円を借方に入れて一致させる。借方に来る差額は費用なので雑損

現金全体は「超過」だったのに、原因を調べたら、説明できない「不足」が1,000円残った。超過=雑益と決めつけず、必ず貸借差額で判断しよう。

仕訳決算日に、現金の実際有高が帳簿残高より1,500円多いことが判明し、原因は不明だった
借方科目金額貸方科目金額
現金1,500雑益1,500

05人を疑う前に、仕組みを疑え ― 内部統制

現金は、会社の資産の中で最も盗まれやすく、最もミスが起きやすい。だからこそ、会社は「人が誠実であること」に頼らず、「間違いや不正が起きにくい仕組み」を作る。これを内部統制という。

現金を守る内部統制の例
仕組みねらい
レジ締めを2人で行い、双方が署名する1人による着服や数え間違いを防ぐ
釣銭準備金を毎日同じ額(例:5万円)に戻す日々の売上と、店に置く現金を明確に分ける
店の経費はレジから出さず、小口現金を使う売上の現金と経費の現金を混ぜない(第4章)
現金過不足を毎日記録し、本部が店舗別に集計する特定の店・時間帯に偏ったズレを早期に発見する
券売機・セルフレジ・キャッシュレス決済の導入人が現金に触れる回数そのものを減らす

外食チェーンの多くが券売機やセルフレジ、キャッシュレス決済を導入するのは、人件費の削減だけが理由ではない。現金に人の手が触れる回数を減らせば、数え間違いも、お釣りの渡し間違いも、着服の誘惑も、まとめて消せるからだ。

THINK ― 判断してみよう

12店舗の中で、1店舗だけ毎月数千円が足りない

おかわり堂の本部に、12店舗の現金過不足の月次データが集まってきた。11店舗は毎月±1,000円以内に収まっている。だが、ある1店舗だけが、この半年間、毎月3,000〜5,000円の不足を出し続けている。金額は小さい。あなたなら、どう動くか?

考え方の例を見る▼

まず、金額の小ささに惑わされない。重要なのは金額ではなく「パターン」だ。他の店では起きていないズレが、1店舗だけで継続的に、しかも一方向(不足)に偏って起きている。これは単なる偶然のミスでは説明しにくい「シグナル」である。

次に、いきなり人を疑わず、データで絞り込む。

  • ズレが発生した日付・曜日・時間帯と、シフト表を突き合わせる
  • その店舗だけ業務の手順(両替のやり方、経費の支払い方法、レジ締めの人数)が違っていないかを確認する
  • POSの取消・返品・値引きの記録に、不自然な集中がないかを調べる

そして、仕組みで対策する。2人体制でのレジ締めを徹底し、店舗間で人員をローテーションし、キャッシュレス比率を上げる。不正であれ単なるミスであれ、仕組みを変えればズレは止まるはずだ。止まらなければ、そこで初めて、事実に基づいて個人の責任を問う。

月数千円の損失そのものより、「この会社では現金のズレが放置される」という空気が広がることのほうが、はるかに高くつく。

06確認問題

問1次のうち、簿記上「現金」として扱うものをすべて選びなさい。

ア.他人振出小切手 イ.自己振出小切手 ウ.郵便切手 エ.送金小切手 オ.収入印紙 カ.配当金領収証 キ.普通為替証書 ク.他社が発行した商品券

解答・解説を見る▼

ア、エ、カ、キ

イは当座預金、ウは通信費(期末に未使用なら貯蔵品)、オは租税公課(同)、クは受取商品券で処理する。

問2次の一連の取引を仕訳しなさい。

(1) 現金の実際有高を調べたところ85,000円で、帳簿残高は90,000円だった。

(2) (1)の不足額のうち3,000円は、郵便切手の購入(通信費)の記入漏れであることが判明した。

(3) 決算日になっても、残りの不足額の原因は判明しなかった。

解答・解説を見る▼
仕訳(1) 帳簿の現金を5,000円減らして実際有高に合わせる
借方科目金額貸方科目金額
現金過不足5,000現金5,000
仕訳(2) 判明した分を本来の勘定に振り替える
借方科目金額貸方科目金額
通信費3,000現金過不足3,000
仕訳(3) 残額2,000円を雑損に振り替える
借方科目金額貸方科目金額
雑損2,000現金過不足2,000

問3決算日に、現金過不足勘定の借方残高が4,000円あった。調査の結果、水道光熱費6,000円の支払いと、受取利息3,000円の受け取りの記入漏れが判明した。残額は原因不明である。決算整理仕訳をしなさい。

解答・解説を見る▼
借方科目金額貸方科目金額
水道光熱費6,000現金過不足4,000
雑損1,000受取利息3,000

現金過不足の借方残高4,000円をゼロにするため、貸方に4,000円。水道光熱費(費用)は借方に6,000円、受取利息(収益)は貸方に3,000円。この時点で借方6,000円、貸方7,000円なので、差額1,000円を借方に入れる。借方の差額は雑損となる。

問4決算日に現金の実際有高を確認したところ、帳簿残高より700円少なかった。原因は不明である。仕訳をしなさい。

解答・解説を見る▼
仕訳決算日当日の発見なので、現金過不足を使わず直接「雑損」とする
借方科目金額貸方科目金額
雑損700現金700

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓簿記の「現金」は、通貨+通貨代用証券(他人振出小切手、送金小切手、郵便為替証書、配当金領収証、期限到来の公社債利札)
  • ✓自己振出小切手は当座預金、切手は通信費、収入印紙は租税公課。現金と混同しない
  • ✓現金出納帳は、現金の入出金を時系列で詳しく記録する補助簿
  • ✓現金のズレは、まず帳簿を実際有高に合わせ、差額を「現金過不足」に仮置きする
  • ✓原因が判明したら本来の勘定へ振り替え、決算日まで不明なら雑損・雑益へ。最後の差額は貸借差額で判断する
  • ✓ズレは消さずに記録する。人を疑う前に、仕組み(内部統制)を疑う