簿ケースで学ぶ簿記3級
目次▼

第1部 簿記というOS

第1章5つの要素と2つの財務諸表

口座に1億円ある会社は、本当に「金持ち」か?

現金の多さは、会社の豊かさを意味しない。資産・負債・純資産・収益・費用という5つの要素と、貸借対照表・損益計算書という2枚の決算書。簿記のすべてはここから始まる。

読了目安 25分難易度 ★☆☆

GOALS

この章で学ぶこと

この章の目次▼
  1. 01会社の「財産」を3つに分ける ― 資産・負債・純資産
  2. 02ナイトオウル交通の「設立初日」を解剖する
  3. 03答え合わせの準備 ― 「正味の財産」で比べる
  4. 04貸借対照表(B/S)― ある「瞬間」を切り取った写真
  5. 05収益と費用 ― 1年間を記録した「動画」
  6. 062枚の決算書は「当期純利益」でつながっている
  7. 075つの要素の「ホームポジション」
  8. 08会計期間 ― 成績は1年ごとに区切って計算する
  9. 09確認問題

QUESTION ― この章の問い

口座に1億円ある会社と、1,000万円しかない会社。「金持ち」はどっちだ?

4月1日、東京・新宿。夜行高速バス会社「ナイトオウル交通」が産声をあげた。

設立初日、会社の銀行口座には1億円。社長は記者に胸を張った。「うちは1億円の会社です」。

同じ日、同じ路線を走るライバル「ブルーナイト・エクスプレス」の口座残高は、わずか1,000万円だった。

ところが、両社の決算書を見比べたメインバンクの融資担当者は、迷わずこう言った。

「豊かなのは、圧倒的にブルーナイトさんのほうですね」

口座残高が10分の1の会社のほうが、なぜ「豊か」なのか?

01会社の「財産」を3つに分ける ― 資産・負債・純資産

問いを解くには、会社の財産を正しく見る「メガネ」が必要だ。簿記では、ある時点の会社の財産状態を、次の3つに分けて捉える。

財産を見る3つのメガネ
要素ひとことで言うと具体例(勘定科目)
資産会社が持っている「プラスの財産」現金、普通預金、売掛金、商品、建物、車両運搬具、土地、貸付金
負債将来お金を払わなければならない「マイナスの財産」借入金、買掛金、未払金
純資産資産から負債を引いた「正味の財産」。株主のもの資本金、繰越利益剰余金

資産とは、会社が持っている財産だ。お金そのもの(現金・預金)だけでなく、将来お金に変わるもの(商品・売掛金)や、お金を稼ぐために使うもの(バス・建物)も含まれる。

負債とは、将来お金を払う義務だ。銀行から借りたお金(借入金)や、まだ払っていない仕入代金(買掛金)がその代表である。

純資産とは、資産から負債を差し引いた残りだ。もし今日、会社がすべての資産を売り払って借金をすべて返したら、手元に残るはずの財産。それは会社の持ち主である株主のものだ。

02ナイトオウル交通の「設立初日」を解剖する

では、ナイトオウル交通の1億円の正体を見てみよう。

CASE FILEナイトオウル交通株式会社 ― 設立初日(4月1日)

創業者が自分の貯金と仲間からの出資で3,000万円を払い込み、株式会社を設立した。さらに、夜行バス2台の購入資金として、メインバンクから7,000万円を借り入れた。その結果、口座には1億円が入っている。

この状態を、簿記のメガネで見るとこうなる。

資産(お金の使いみち)
負債・純資産(お金の出どころ)
普通預金
1億円
借入金
7,000万円
資本金
3,000万円
ナイトオウル交通の財産状態(設立初日)

左側が資産、右側が負債と純資産。そして、左右の合計は必ず一致する。

FORMULA ― 公式

貸借対照表等式

資産 = 負債 + 純資産

1億円 = 7,000万円 + 3,000万円

この図の読み方こそ、財務分析の出発点となる視点だ。

右側は「お金をどこから集めたか(調達源泉)」を表す。銀行から借りたのか(負債)、株主から出してもらったのか(純資産)。

左側は「集めたお金を何に使っているか(運用形態)」を表す。いまは全額が預金のままだが、バスを買えば「車両運搬具」に、燃料を買えば費用に姿を変えていく。

03答え合わせの準備 ― 「正味の財産」で比べる

ここで、ライバルのブルーナイト・エクスプレスの財産状態も見てみよう。彼らは創業10年目。かつて買ったバス3台の借金は、すでに完済している。

2社の財産を比較する(同じ日の時点)
項目ナイトオウル交通ブルーナイト
現金・預金1億円1,000万円
バス(車両運搬具)0円9,000万円
資産合計1億円1億円
借入金7,000万円0円
純資産(資産-負債)3,000万円1億円

ANSWER ― 答え合わせ

なぜ「1,000万円の会社」のほうが豊かなのか

答えは純資産だ。

ナイトオウル交通の口座にある1億円のうち、7,000万円は銀行から借りたお金にすぎない。いずれ利息をつけて返さなければならない。本当に会社のもの(=株主のもの)と言えるのは、資産1億円から負債7,000万円を引いた3,000万円だけだ。

一方のブルーナイトは、現金こそ1,000万円しかないが、借金ゼロでバス3台を所有している。正味の財産は1億円。ナイトオウルの3倍以上だ。

「お金を持っている」ことと「豊かである」ことは違う。銀行が見ていたのは口座残高ではなく、資産から負債を引いた純資産だったのである。

THINK ― 判断してみよう

それでも、ナイトオウル交通にしかない「強み」はあるか?

融資担当者の言葉に、ナイトオウルの社長はがっくりと肩を落とした。あなたなら、社長にどう声をかけるだろうか。ナイトオウル交通の財産状態に、ブルーナイトにはない強みはあるだろうか?

考え方の例を見る▼

ある。すぐに使える現金(流動性)だ。

序章で見たとおり、会社は赤字ではなく「支払えないこと」で死ぬ。ブルーナイトは豊かだが、手元の現金は1,000万円。もしバスが1台故障して高額な修理が必要になったり、感染症の流行で運休が続いたりすれば、たちまち資金繰りに窮するおそれがある。

一方ナイトオウルは、借金で集めたとはいえ1億円の現金を持っている。この現金を、借入金の利息(たとえば年3%なら年210万円)を上回るリターンを生むバスに投資できれば、会社は成長し、純資産は増えていく。

社長には、たとえばこう伝えたい。「純資産は会社の体力、現金は会社の血液です。体力ではライバルに負けていますが、血液は十分にある。この血液を、利息以上に稼ぐバスに変えていきましょう」。

04貸借対照表(B/S)― ある「瞬間」を切り取った写真

資産・負債・純資産の状態を1枚の表にまとめたものを、貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)という。英語では Balance Sheet、略して B/S(ビーエス)と呼ぶ。

貸借対照表は、ある特定の日(ふつうは決算日)の財産状態を写した「写真」のようなものだ。この会社が、その瞬間に何を持ち(資産)、誰にいくら返す義務があり(負債)、正味でいくらの財産があるのか(純資産)を一目で示す。

ナイトオウル交通の貸借対照表(設立初日・4月1日)
資産金額負債・純資産金額
普通預金100,000,000借入金70,000,000
資本金30,000,000
合計100,000,000合計100,000,000

05収益と費用 ― 1年間を記録した「動画」

さて、設立したナイトオウル交通は、すぐにバス2台(合計1億円)を購入し、東京と京都を結ぶ夜行便の運行を始めた。乗客から運賃を受け取り、運転士に給料を払い、軽油を買って走る。

このように、会社が活動するなかで純資産を増やす原因と純資産を減らす原因を、簿記では次のように呼ぶ。

会社の活動を見る2つのメガネ
要素ひとことで言うと具体例(勘定科目)
収益純資産を増やす原因(稼ぎ)売上、受取手数料、受取利息、受取家賃
費用純資産を減らす原因(稼ぐための犠牲)給料、支払家賃、支払利息、減価償却費、水道光熱費

収益とは、商品やサービスを提供した対価として得た「稼ぎ」だ。バス会社の運賃収入も、簿記では売上として記録する。

費用とは、収益を得るために使った「犠牲」だ。運転士の給料、燃料代、銀行への利息などがこれにあたる。

収益から費用を差し引いたものが、当期純利益だ。

FORMULA ― 公式

損益計算書等式

収益 - 費用 = 当期純利益

(費用が収益を上回れば、当期純損失)

1年間の収益と費用をまとめた表を損益計算書(そんえきけいさんしょ)という。英語では Profit and Loss Statement、略して P/L(ピーエル)だ。貸借対照表が「写真」なら、損益計算書は1年間の活動を記録した「動画」にあたる。

ナイトオウル交通の損益計算書(第1期:4月1日〜翌年3月31日)
費用金額収益金額
給料60,000,000売上180,000,000
燃料費32,000,000
支払手数料28,000,000
減価償却費20,000,000
保険料・修繕費など17,900,000
支払利息2,100,000
当期純利益20,000,000
合計180,000,000合計180,000,000

※支払手数料は、高速道路の通行料や予約サイトへの手数料。減価償却費は、バスの価値の目減り分を費用にしたもの(第12章)。「燃料費」のように、会社は自社の事業に合った勘定科目を設定できる。試験では、問題文で指定された勘定科目を使うこと。※法人税などの税金は第14章で扱うため、ここでは省略している。

損益計算書は、左側に費用、右側に収益を書き、その差額である当期純利益を左側に書いて、左右の合計を一致させる。利益は「収益のうち、費用に使われずに残った部分」だから、費用と同じ側に並べると左右がそろう、と考えるとよい。

062枚の決算書は「当期純利益」でつながっている

第1期の終わり(3月31日)、ナイトオウル交通の貸借対照表はこうなった。

ナイトオウル交通の貸借対照表(第1期末・3月31日)
資産金額負債・純資産金額
普通預金40,000,000借入金70,000,000
車両運搬具80,000,000資本金30,000,000
繰越利益剰余金20,000,000
合計120,000,000合計120,000,000

※車両運搬具は、購入額1億円から1年分の価値の目減り(減価償却費)2,000万円を差し引いた金額。繰越利益剰余金は、会社が稼いだ利益の蓄積を表す純資産の勘定科目(第13章)。

純資産に注目してほしい。期首は資本金3,000万円だけだったのが、期末は資本金3,000万円+繰越利益剰余金2,000万円=5,000万円に増えている。

増えた2,000万円は、損益計算書の当期純利益2,000万円とぴったり一致する。これは偶然ではない。

期首の純資産
期末の純資産
資本金
3,000万円
(まだない)
資本金
3,000万円
繰越利益剰余金
2,000万円
=当期純利益
期首から期末へ ― 純資産は当期純利益の分だけ増える

※財産法の式がそのまま使えるのは、期中に株式の発行(増資)や配当がない場合。増資や配当があるときは、その影響を除いて計算する(第13章)。

075つの要素の「ホームポジション」

ここまでで、簿記の5つの要素がそろった。それぞれの要素には、決算書の上で「定位置」がある。これを本書ではホームポジションと呼ぶ。

左側(借方)
右側(貸方)
資産
費用
負債
純資産
収益
5要素のホームポジション(左=借方、右=貸方)
5要素のホームポジション一覧
要素載る決算書ホームポジション代表的な勘定科目
資産貸借対照表左(借方)現金、売掛金、建物
負債貸借対照表右(貸方)借入金、買掛金
純資産貸借対照表右(貸方)資本金、繰越利益剰余金
費用損益計算書左(借方)給料、支払利息
収益損益計算書右(貸方)売上、受取利息

このホームポジションは、次の章で学ぶ仕訳のルールの土台になる。「資産と費用は左、負債と純資産と収益は右」。今はこれだけ覚えておけば十分だ。

08会計期間 ― 成績は1年ごとに区切って計算する

会社は何十年も活動を続ける。そのままでは成績をつけられないので、簿記では活動を1年ずつに区切って計算する。この区切りを会計期間という。

会計期間に関する用語
用語意味
期首会計期間の初日(例:4月1日)
期末(決算日)会計期間の最終日(例:3月31日)
期中期首から期末までの間
前期・当期・次期前の会計期間・いまの会計期間・次の会計期間
決算期末に帳簿を締めて、財務諸表を作成する手続き

日本の会社は4月1日〜3月31日を会計期間とすることが多いが、12月決算や9月決算の会社もある。会社が自由に決められる。試験でも「会計期間は×1年4月1日から×2年3月31日まで」のように、問題文で指定される。

THINK ― 判断してみよう

社長「融資が決まった!これで会社の価値が上がったぞ」

メインバンクが、ナイトオウル交通に追加で5,000万円を貸してくれることになった。社長は大喜びで「これで純資産が5,000万円増えた!」と言っている。あなたなら、社長に何を伝えるか?

考え方の例を見る▼

まず事実を正確に伝える。「借入れでは純資産は増えません」。

借入れによって、資産(預金)が5,000万円増え、同時に負債(借入金)が5,000万円増える。資産-負債=純資産は変わらない。

純資産を増やす方法は、本質的に2つしかない。

  • 利益を出す(収益が費用を上回る)
  • 株主から出資を受ける(株式を発行する。第13章)

そのうえで、こう続けたい。「この5,000万円で3台目のバスを買い、年間の利益が利息の支払いを大きく上回るなら、その利益の分だけ純資産が増えていきます。借入れは純資産を増やすための燃料であって、純資産そのものではありません」。

09確認問題

問1次の勘定科目を、資産・負債・純資産・収益・費用に分類しなさい。

現金/借入金/資本金/売上/給料/建物/買掛金/受取利息/支払家賃/売掛金/繰越利益剰余金/支払利息

解答・解説を見る▼
要素勘定科目
資産現金、建物、売掛金
負債借入金、買掛金
純資産資本金、繰越利益剰余金
収益売上、受取利息
費用給料、支払家賃、支払利息

「受取〜」は収益、「支払〜」は費用になるものが多い。売掛金(あとで代金を受け取る権利)は資産、買掛金(あとで代金を支払う義務)は負債。

問2財産法で当期純利益を求めなさい。

期首の資産は800万円、負債は300万円だった。期末の資産は1,000万円、負債は350万円だった。期中に増資や配当はなかった。

解答・解説を見る▼

期首純資産 = 800万円 - 300万円 = 500万円

期末純資産 = 1,000万円 - 350万円 = 650万円

当期純利益 = 650万円 - 500万円 = 150万円

問3空欄を埋めなさい。

ある会社の当期の収益総額は5,000万円、費用総額は5,300万円だった。期首の純資産は2,000万円で、期中に増資や配当はなかった。当期純(ア)は(イ)万円、期末の純資産は(ウ)万円である。

解答・解説を見る▼

費用が収益を上回っているので、(ア)損失。

(イ)5,000万円 - 5,300万円 = △300万円 → 当期純損失 300万円

(ウ)2,000万円 - 300万円 = 1,700万円

純損失の分だけ、純資産は減る。

問4銀行から2,000万円を借り入れ、現金で受け取った。資産・負債・純資産はそれぞれどう変化するか。

解答・解説を見る▼

資産(現金)が2,000万円増加、負債(借入金)が2,000万円増加。純資産は変化しない。

借入れは「お金の出どころ」が負債であるだけで、正味の財産を増やすものではない。

SUMMARY

この章のまとめ

  • ✓資産は「持っている財産」、負債は「将来払う義務」、純資産は「資産-負債=株主のもの」
  • ✓貸借対照表(B/S)は、ある時点の資産・負債・純資産を示す「写真」。資産=負債+純資産
  • ✓B/Sの右側は「お金の出どころ」、左側は「お金の使いみち」。同じお金を2方向から見るので左右が一致する
  • ✓収益は純資産を増やす原因、費用は減らす原因。損益計算書(P/L)は1年間の「動画」
  • ✓当期純利益は、財産法(期末純資産-期首純資産)と損益法(収益-費用)で一致する
  • ✓ホームポジション:資産・費用は左(借方)、負債・純資産・収益は右(貸方)
  • ✓借入れでは純資産は増えない。純資産を増やすのは「利益」と「株主からの出資」だけ